【地域の針路】「高い水」縮む地方に不安 規制緩和、公的支え後退

漁の準備に余念がない嶋元さん。規制緩和の波を前に漁師たちの不安は尽きない=熊本県上天草市大矢野町
漁の準備に余念がない嶋元さん。規制緩和の波を前に漁師たちの不安は尽きない=熊本県上天草市大矢野町
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 地方の人口減に歯止めがかからない。高齢化、人手不足が急速に進む中で行政も市民も、もがきながら地域の持続可能なあり方を探っている。今春行われる平成最後の統一地方選を前に、地域が直面する課題や新たな動きを追う。

 山手の果樹畑から有明海が眼下に広がる。益田重伸(43)はミカンの枝切りの手を止めて言った。

 「人が減るとこんなに水が高くなるなんてね…」

 熊本県上天草市大矢野町の維和(いわ)島。ここは全国で4番目、九州では最も水が高い。大矢野地区の昨年の水道料金(家庭用20立方メートル当たり)は6264円。最も安い兵庫県赤穂市とは7倍もの差だ。2人暮らしで月2万円を超える世帯もある。市人口は2万7千人。ピークの1950年から半減、そのまま水道料の収入減につながった。地区に水源はなく、熊本県八代市から海底送水管で水を引くコストが重なり「高い水」になった。この先、人口増は見込めず、上天草市民へのさらなる負担増が懸念される。

 「ミカン畑は1日10トン水が要る」。益田は昨夏、安い水を求めて島から橋を渡り市街地の地下水くみ上げ場に毎日何往復もトラックを走らせた。市街地に計画中の観光施設やリゾート開発にも高い水は影を落とす。

   ◆    ◆

 水が地方を追い詰める。人口減により、水道料金の全国平均は30年間で3割上昇、全国の水道管の15%が耐用年数の40年を超える。震度6強程度の地震に耐えられる「耐震適合率」は4割に満たない。自治体の力に限界をみる国は事業基盤の強化を狙い、自治体に任せてきた水道事業の運営権を民間に売却できることを盛り込んだ改正水道法を年内に施行する。水の「民営化」である。

 しかし-。「命にかかわる水を民間に任せていいのか」と益田。経営が悪化すれば料金は逆に高騰するかもしれない。水質への懸念。災害時、責任を持って施設を復旧するのか。市は今のところ民営化は考えていないが、老朽管改修など自力で水を守るための課題は多い。水道施設を統廃合するなど「人口減に合わせた規模に縮小しても運用を続ける」と市水道局長の小西裕彰(57)の表情は硬い。

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 国が進める規制緩和は水にとどまらない。「浜が変わっとだろな」。はえ縄漁船が並ぶ維和島蔵々(ぞうぞう)漁港。地元漁協ハモ部会長の嶋元秀司(59)は、昨年約70年ぶりに大改正された漁業法への不安を口にした。

 世界の漁業生産量は30年間で2倍になる一方、日本は3分の1に。就業者も九州は約4万5千人(2013年)と10年で約3割減った。法改正は漁業権を漁協に優先的に与える規定を廃止し民間参入を促進。漁業の成長産業化を狙う。嶋元は相場が下がる場合は休業するなど「浜のルール」をつくってきた。「もうけに走る企業が来たら漁場はどうなるか。競争の波で零細漁師も淘汰(とうた)されるのでは」

 大分県佐伯市では03年、外資系企業がブリ養殖に新規参入した。輸出用の加工場新設を地元に約束したが、わずか5年で撤退し計画も立ち消えに。企業参入に地元漁師の不安は根強い。それでも市内の水産加工業の男性(61)は「個人で安定した漁業所得を得られる時代じゃない。企業なら地域の雇用も生まれる」と理解も示す。

 国は、戦後日本の食を支えてきたコメや麦、大豆の種子の生産を都道府県に義務付けていた主要農作物種子法も廃止した。民間への市場開放が目的だ。水、農、漁。日本の資源から「公的な支え」が後退していく。「誰に、何に頼ればよかとだろか」。嶋元のため息は深い。 =敬称略

=2019/02/17付 西日本新聞朝刊=

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