チェルノブイリがん調査に尽力 ウクライナの女性研究者に永井隆平和記念賞 共同研究で長崎にも縁

「永井隆平和記念・長崎賞」を受賞したタチアナ・ボグダノワ氏(中央)=8日、長崎市
「永井隆平和記念・長崎賞」を受賞したタチアナ・ボグダノワ氏(中央)=8日、長崎市
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 被ばくの治療や調査・研究に功績があった個人・団体を顕彰する「第12回永井隆平和記念・長崎賞」をウクライナの女性研究者、タチアナ・ボグダノワ氏(70)が受賞した。1986年に起きたチェルノブイリ原発事故を機に、若い世代の甲状腺がんの診断や調査に尽くし、国際的に知見を共有する活動に携わってきた。ボグダノワ氏は8日に長崎市であった授賞式後に講演し「長崎大などの共同研究者との国際的な活動が評価された」と強調した。

 甲状腺など内分泌病理学を専門にしていたボグダノワ氏は、旧ソ連ウクライナでのチェルノブイリ原発事故後、原発に近い場所で働いていたこともあり、多発した小児甲状腺がんへの対応を迫られた。当初、増加するがんと事故との因果関係は判然としなかった。事故による汚染の実態を巡っては「真実の情報がなかった」。

 ウクライナでは甲状腺がんの平時の正確な統計データもなく、「事故の規模と特異性により極めて困難な問題に直面した」という。

 そうした中で、ボグダノワ氏は世界各国の研究者と病理学の観点で甲状腺がんのデータベースを創設。統計データを積み重ね、原発事故の放射線が、現地での小児甲状腺がんの発生率増加に影響したことを突き止めたという。

 98年には、旧ソ連の崩壊で散逸する恐れがあった甲状腺がんのサンプルを国際的に管理するプロジェクト「甲状腺がん国際チェルノブイリ組織バンク(CTB)」の設立に携わった。CTBのデータは、福島第1原発事故の影響を調べる研究でも活用されている。

 数多くの国際共同研究に参画し、長崎・ヒバクシャ医療国際協力会が2014年に発行した英語の医学教科書「チェルノブイリ原発事故後のウクライナにおける甲状腺がん」では、長崎大の研究者らとともに編集・執筆を担当。長崎には長崎大原爆後障害医療研究所の客員教授として、16年6月~17年3月に滞在。チェルノブイリ事故と福島第1原発事故を比較し、福島の人々の健康への影響を調べた。

 ボグダノワ氏は講演後の記者会見では、長崎滞在時に長崎原爆資料館を訪ねたことに言及。被爆で壊滅した長崎の写真を見て「心が痛んだ」。8月9日に長崎大であった慰霊祭では被爆者の体験を直接聞いたといい、「どんなに恐ろしいことを乗り越えたかがよく分かった」と思いをはせた。

 「長崎賞」にその名を冠する永井隆博士は37歳で被爆し、傷ついた人々の救護に当たった。「博士は被爆で医療が必要な人たちに、若くして奉仕した」と語るボグダノワ氏も38歳でチェルノブイリ原発事故に直面し、後半生を放射線誘発がんの研究にささげてきた。

 亡くなるまで被爆者に寄り添い続けた永井博士のように、ボグダノワ氏もチェルノブイリ事故とその被災者に向き合い続ける覚悟だという。

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 【ワードBOX】永井隆平和記念・長崎賞

 被爆50年を機に1995年に創設された。被爆者の救護に尽力し、平和を訴え続けた永井隆博士(1908~51)の精神を引き継ぐ研究者や団体を対象に、長崎県や長崎市、同県医師会などでつくる「長崎・ヒバクシャ医療国際協力会(NASHIM=ナシム)」が2年に1度、顕彰。第1回の受賞者は被爆者医療に尽力した医師、秋月辰一郎氏(1916~2005)。これまでに14の個人・団体に贈られた。

=2019/02/19付 西日本新聞夕刊=

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