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光沢と手触り、漆芸の技 寡黙に「もっと良い物を」 [大分県]

自宅の作業場で豆びなを作る相沢秀一さん。「年を重ねるごとに良い物を作りたいという思いが増す」
自宅の作業場で豆びなを作る相沢秀一さん。「年を重ねるごとに良い物を作りたいという思いが増す」
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豆田町の店に立つ相沢さんと妻郁代さん。作品に一番惚れ込んでいるのは郁代さんだ
豆田町の店に立つ相沢さんと妻郁代さん。作品に一番惚れ込んでいるのは郁代さんだ
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わんや茶道具などの数々。蒔絵を施し独特の色合いと艶がある作品に多くの人が引きつけられる
わんや茶道具などの数々。蒔絵を施し独特の色合いと艶がある作品に多くの人が引きつけられる
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親指ほどのひな人形の仕上げ。繊細な作業が続く
親指ほどのひな人形の仕上げ。繊細な作業が続く
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店内に飾られている相沢静舟(本名・時雄)さんの写真。一流の蒔絵師で趣味の絵画も「プロ級」だったという
店内に飾られている相沢静舟(本名・時雄)さんの写真。一流の蒔絵師で趣味の絵画も「プロ級」だったという
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 細い筆にふくませた漆を、親指ほどの小さなひな人形に引くと、澄ました表情の愛らしい顔が仕上がった。9月中旬、日田市三ノ宮町の静かな作業場で、漆芸職人相沢秀一さん(65)は繊細な手つきで豆びな作りを進めていた。「地味な仕事やけど、飽きずにやりよるということは、この仕事が好きなんやろうね」。はにかむように笑って、また黙々と作業を続けた。

 4人きょうだいの末っ子。幼い頃から、漆器を金や銀で装飾する蒔絵(まきえ)師だった父静舟(本名・時雄)さんが働く市内の漆器会社に出入りし、職人仕事はいつも身近にあった。

 日田林工高を卒業後、一度は周囲に流されて、愛知県の自動車関連会社に就職。だが決められた仕事をこなし、工場と寮を往復するだけの日々に「自分の手で自分にしかできないものが作りたい」との思いが募るようになった。思い出したのは寡黙に仕事をする父の背中と漆のにおい。「職人の血かもしれないね」。1年で退社して帰郷、父の仕事を手伝い始めた。

 漆器作りは気を抜けない作業の連続だ。例えば、わん。下地の漆を人毛でできたはけで塗り、乾いて固まるのを待って中塗りの漆を重ねる。はけ目が出ないよう縦に横に。はけを入れる角度や向きを微妙に変え、漆の厚さにむらが出ないよう塗らなければならない。

 さらに、わずかなくぼみやはけ目を消すために炭や紙やすりなどを使って表面をなめらかに研ぐ。この作業を数回繰り返し、さらに上塗り。漆の層が幾重にもなって色漆や蒔絵で仕上げの装飾を施したらようやく完成。独特の光沢と手触りのある漆器が生まれる。

 一つの工程が済み、次に取りかかれるのは2、3日後。作る器によって完成まで1~3カ月かかる。どこかでくぼみを見逃したり、「まあいいか」と妥協したりすれば、必ず仕上げにそのくぼみが現れる。神経を集中させて目をこらし、作品と向き合う。「良い物を作りたい。思いの強さが出来を左右するんだよ」

 日田市史などによると、日田の漆器の歴史は明治末期に始まったとされ、昭和初期にかけて日田を代表する産業となったが、需要の低迷や後継者不足などで戦後には衰退。今は担い手がほとんどいなくなった。なりわいとしているのは相沢さんだけといわれる。

 相沢さんは1985年、同市豆田町に自身が手掛けたわんや箸、茶器などを販売する「相沢漆芸工房」を開いた。師と仰いだ父は89年、他界。相沢さんは翌年、西部工芸展に麻布を漆で固める「乾漆(かんしつ)」の技法による作品を初出展し、県知事賞を受賞した。「頼る人がいなくなった中での受賞は励みになった」と振り返る。

 父の残した作品を見るたびに「まだまだ足元にも及ばない」と思う。そして年を重ね、経験を積むほど、気づかなかったことに目がいくようになり、「もっと良い物ができるはずだ」との思いも強くなった。「負けんごと、頑張りたいね」。目に焼き付いた父の背中を今も追い続ける。

メモ

 相沢漆芸工房では、漆塗りに蒔絵(まきえ)を施した「豆びな」(2300円~、大きさで価格は異なる)が人気商品。螺鈿(らでん)を施した茶器のなつめや、艶のあるわん、箸なども販売。父、静舟さんが手掛けた乾漆の仏像や能面も飾られている。営業時間は午前9時~午後5時で水曜定休。日田市豆田町10の2。0973(22)7588。

日田めいじん100選 ヒタスタイルと共同企画

 西日本新聞社は日田市の無料情報誌「ヒタスタイル」との共同企画「日田めいじん100選」に取り組んでいます。日田に住む、もしくは働く名人や達人など、その道の極め人を日田玖珠版で紹介します。記者が日頃の取材で探し出した方のほか、読者の推薦(自薦も含む)で、面白いと判断した方も紙面に登場してもらおうと考えています。ぜひ情報をお寄せください。

 連絡先は日田支局=0973(23)5177▼ファクス0973(23)5178▼メール=hita@nishinippon‐np.jp

=2017/10/01付 西日本新聞朝刊=

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