日本一早い始発列車~日豊線ひと模様(下) また新しい一日が始まる [大分県]

門司港では、蛍光灯の明かりの下で地域の人たちがラジオ体操を始めた
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 午前5時55分。九州の玄関口であり、北九州市の中心駅でもある小倉駅(同市小倉北区)を出発した「日本一早い始発列車」は、終点に近づいていく。都会へ近づくにつれ、降りるのも乗るのも、学生やサラリーマンの姿が目立つ。

 その光景に、中津市立豊陽中の山香昭校長(54)は思うところがある。子どものころ、北九州市戸畑区の製鉄関連会社の社宅に住んでいた。コン、コン。軽快な音に玄関を開くと、体より大きいんじゃないかと思うほどの風呂敷を背負ったおばあちゃんが立っていた。「シャコいらんかね」

 宇佐市の長洲漁港からの行商だった。早朝の日豊線に乗り、北九州市によく来ていたらしい。「製鉄の街」北九州には企業の社宅が多く、売り込みにはもってこいだった。「もう半分押し売り。買わざるを得ない感じ」。思い出すと、くすりと笑ってしまう。かつて日豊線の車内には、そんな“風呂敷ばあちゃん”を見掛けることができた。

 時代は変わる。列車を利用する人も、沿線の光景も。柳ケ浦駅(宇佐市)を午前4時17分に出る始発列車も3月のダイヤ改正で姿を消す。けれども地域に根付いた列車の往来と、記憶の数々は変わることはない。

 夜のとばりが降りたまま、終点の門司港駅(北九州市門司区)に着いた。午前6時10分。5番ホームに収まり、始発列車は静かに役割を終えた。前の3両は鹿児島線快速大牟田行き、後ろの3両は南福岡行きに姿を変え、8分後の出発を待つ。通勤客や学生が改札を通り、また列車に吸い込まれる。

 構内は蛍光灯でほんのりオレンジ色に染まっている。門司港レトロ地区につながる北口の一角。近くに住む年配者がぞろぞろと集まってきた。約20人と犬1匹。「まずは大きく背伸びの運動からぁ~」。毎朝恒例のラジオ体操が始まった。

 もともとは地域の小学校で、夏休みの子ども向けにやっていた。その小学校が23年前に統廃合して使えなくなり、今の場所へ。すると早朝に散歩していた人が加わり始めた。最初は夏だけ。「もっとやろうよ」。季節を問わず、体操を求める声が多く出た。いつの間にか大人向けの日課となり、今や365日、途切れることなく続いている。

 「体操を続けられるのも、健康でいられるからこそ」。輪の中心で、菊池正幸さん(69)は外に視線を向けた。「また新しい一日が始まる、な」。体操が終わった。空は白み始めている。さあ、夜明けだ。

 =おわり


=2018/01/10付 西日本新聞(大分・日田玖珠)=

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