「村八分訴訟」衝突はなぜ起きた? 「Uターン者のトラブル少なくない」専門家は警告 [大分県]

訴状を持って大分地裁に入る原告側の代理人弁護士
訴状を持って大分地裁に入る原告側の代理人弁護士
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 県中部の集落に移住した男性(73)の家族3人が21日、「村八分」の扱いを受け転居せざるを得なくなったとして損害賠償を求めて大分地裁に提訴した。近年、UターンやIターンなどが一部の都市生活者に人気となっているが、専門家は「元々の住民と価値観の相違などからトラブルになるケースは少なくない」と警告する。なぜ衝突は起こったのか。男性、訴えられた元区長(70)や土地改良区、専門家に意見を聞いた。

■元区長主導の仕返しだ 移住者の原告男性(73)

 -なぜこの集落に移住したのか。

 集落に住んでいた故人の男性に歓迎するからと強く勧められたことが大きかった。池に近い静かな環境は障害のある長男(46)と同居するには最適だと思った。元区長男性(70)も「よく来てくれた」と、池から取水するための同意書作りにも汗を流してくれた。当時は本当に感謝していた。

 ただ自治区の運営方法などで元区長の身勝手な振る舞いが多く、ついていけないとの思いが徐々に募り退会した。元区長はメンツをつぶされたと思ったのか、元区長主導による集落の「村八分」が始まった。

 -池の水が減ったのは農業用水として使用されたからだと元区長は主張する。

 約10年暮らし、雨が少ない年もあったが、取水ができないほど水位が低下する年は一度もなかった。池の水位が異常に下がりだした17年7月は、日田などで人的被害も出た九州豪雨のあった月だ。一方で、昨夏は耶馬渓ダム(中津市)が干上がるほど少雨だったが、池には満々と水があった。元区長らの嫌がらせ以外に考えられない。

 -現在の生活は。

 県内の賃貸アパートに妻(72)と2人で暮らしている。長男は施設に預け、家族がバラバラに暮らさざるを得ない状態だ。家賃や施設利用料も新たに発生し経済的負担は重い。年金生活だから貯蓄を取り崩さざるをえず、人生設計が狂った。なにより一緒に暮らせなくなった長男に申し訳ない。盾突いたからといって、他人の生活まで脅かし、人生も狂わせるほどの仕返しをする必要があるのか。

■説得にも聞く耳持たず 集落の元区長男性(70)

 -なぜ、ごみ出し禁止や行政広報誌の配布を中止したのか。

 集落のごみステーションは、自治区構成員の土地に自治区が金を出して作った。男性は退会したのだからごみを置く権利はない。行政広報誌は役員が構成員に配布するものであり、男性に配る義務はない。

 -2017年7、8月に、原告の家が取水できなくなったのは、元区長ら集落の男性2人が農業用ため池の水位を故意に低下させたからだと主張している。

 まったくの的外れだ。その時期は水田に水を供給しなければならない。雨が降らなければ池の水は減り、水位が下がるのは当然。池に流れ込む水を途中でせき止める権利もわれわれにはなく、流入量をわざと減らすこともできない。それは男性も知っているはずだ。男性は「池に水が入ってこない」と勝手に水路の堰(せき)板を調整し周辺集落から頻繁にクレームが来た。そのたびに頭を下げたのは私たちだ。どちらが被害者か。

 -対立がここまで先鋭化した理由は。

 10戸ほどの小さな集落に来てくれるからと最初は歓迎し、池の使用が認められるよう集落全世帯の同意も取りまとめた。男性より数年早く移住した別の6人家族は集落に溶け込んでいる。移住者が住みにくいわけでは決してない。強調したいのは、彼ら家族が勝手に出ていったということ。彼には「われわれもいたらない部分はある。でも慣例やしきたりがあり、すぐには変えられない。徐々に変えていけばいいじゃないか」と説得した。自分が正しいと聞く耳を持たなかったのは彼だ。

■取水保護の責任はない 池管理の地元土地改良区

 -男性は、土地改良区が池から取水できるよう維持管理する義務を怠ったと訴えている。

 まず確認しておきたいのはため池は農業利水用だということ。2006年11月、集落側から全世帯の同意書を提出されたため、同年12月、「特別の配慮」で池からの取水を許可した。同時に男性には、池の水位が下がったり、池干しなどのため取水ができなくなったりしても、改良区に異議を申し立てないという誓約書を出してもらっている。農業利水が最優先で、改良区には、男性が取水できるようにため池を管理する法的責任はないと考える。

 -集落側から2017年1月、改良区に取水同意についての取り下げ書が提出された。男性への取水許可は無効になっているのか。

 保留と考えている。家族の生活権もあるため、集落から同意取り下げ書が提出されたからといって、一方的に許可を取り消すわけにもいかない。ただ、改良区の構成員でもある集落側の意向を無視するわけにもいかない。非常に難しい立場だということを男性には理解してほしい。

 -改良区は集落寄りだと男性は指摘している。

 過去、農業用ため池なのに、飲料用以外の生活雑用水として男性に取水させていることに、県から疑義が指摘されたこともあった。だが、集落の同意もあるからと男性の取水権を守った。集落と男性の仲介役として話し合いの場も設定したが、男性は姿を現さなかった。改良区には法的責任はなく、集落のもめ事をこれ以上調整することも困難だと考えている。

■先鋭化させないシステム急務 大東文化大・島田恵司教授(自治体政策論)

 人口減少で移住者の受け入れに積極的な自治体は多いが、各地で元々の住民との摩擦が問題となっている。解決が困難なケースもあり、行政は問題が起こることを前提に、対立を先鋭化させないシステム作りを行う必要がある。

=2019/01/22付 西日本新聞朝刊=

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