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【日日是好日】別れから始まる家族の絆 羅漢寺次期住職 太田英華

 空気が澄み、空がだんだん高くなってきました。山々は少しずつ落ち着き、一早く色づいた櫨(はぜ)の木が、ぽつぽつと山を彩り始めました。

 幼いころ、夕日が沈んでも羅漢寺で遊んでいた友達に父が「下は真っ暗やから早く帰れ」と叱っていたことを思い出します。秋の日はつるべ落とし。遊びに夢中で真っ暗になって帰り、父から大目玉を食らったあの頃。今も変わらない同じ秋の空にホッとします。

 夏の終わりに父のお袈裟(けさ)と衣を虫干ししました。父は大柄で身長は180センチ近くありました。私の身長は165センチで、少々大きいですが坊さんになってからは、法衣や作務衣(さむえ)など全て父のお古を着ております。

 お袈裟を整理していると、檀家(だんか)さんのお名前の入った物が何枚か出てきました。亡くなった方の菩提(ぼだい)供養として作ったようです。先日、ご葬儀がありました。亡くなった方は88歳のおばあさん。そういえば、この方が施主になられて作ったお袈裟があることを思い出しました。

 「ご葬儀はこのお袈裟を着けなければ」

 初七日法要が終わり、ご家族にお袈裟のことをお話しすることにしました。何故ならば、先代住職の一存で作られたお袈裟だからです。羅漢寺の檀家さんは70軒程。ご家族のことをほとんど理解していた先代は、多分に頂いたお布施で菩提供養として法具を購入しておりました。こちらのご家族にはお袈裟を作ることにしたようです。

 案の定、今回のご葬儀で使用したお袈裟の事を、ご家族はご存じではなく驚かれました。

 「なぜお袈裟?」

 今回お亡くなりになったおばあさんは、24年前にご主人を亡くされ一人でご家族を守ってこられました。そして、今では曽孫が12人もいる大家族です。先代はきっとこの家族が大家族になることを思い、おばあさんの名前のお袈裟を作ったのでしょう。この家族の法要は、このお袈裟で執り行えばおばあさんがいつも見守ってくださると。

 おばあさんのお通夜の際に私は一つの詩を作り紹介しました。

 「お母さん」

悲しいとき、辛いとき。

思い出します、あなたの背中を。

泣きたいとき、寂しいとき。

思い出します、あなたの笑顔を。

たくさんの子供たちに。

たくさんの孫たちに。

私は伝えます、あなたの背中を。

あなたの笑顔を。

 必ず来る別れ。しかし、この別れは始まりでもあります。今まで以上にお母さんを身近に感じていく始まり。お母さんがどう生きたかを改めて感じていく。残された家族の心に、体にずっと受け継がれる大切なお母さん。今回のご葬儀で、私もたくさんの事に気づきました。亡くなった後に「有り難う」がたくさん増えていきます。

 先代が亡くなって今年で14年。だぼだぼの作務衣を着て、きれいな夕焼けを眺めると、懐かしくなりました。大目玉を食らったあの頃が。合掌。

 【略歴】1967年、羅漢寺27代住職の娘として生まれる。高校卒業後、大学進学のため上京。20代半ばから40歳で出家するまでフラメンコダンサーとして活動。出家後、愛知県の尼僧専門修行道場で約5年間、僧堂修行し、2013年3月に帰山。現在羅漢寺28代次期住職として寺を守る。


=2017/10/29付 西日本新聞朝刊=

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