【見解】長時間労働は抑制できるのか 東京支社 塩塚 未

◆働き方改革

 「二度と悲劇を繰り返さない」-。安倍晋三首相の過労死防止に向けた決意は、掛け声だけだったのだろうか。

 政府の働き方改革実現会議が3月28日に決定した実行計画。大きな柱の一つである長時間労働の抑制策は、過労死遺族から「過労死の基準を合法化する内容」との批判を受ける結果になってしまった。

 残業の原則的上限は「月45時間、年360時間」だが、特別な労使協定を結べば、上限は年720時間。繁忙期は「単月100時間未満」「2~6カ月の月平均80時間以内」で、脳・心臓疾患の労災認定基準とほぼ同じ。首相が国会で答弁した「過労死基準をクリアする」という宿題だけには何とか応えた形だ。

 罰則付きの残業上限規制は、連合の悲願でもあった。神津里季生(こうづりきお)会長は3月13日の「月100時間を基準」とする労使合意後、「労働基準法70年の歴史の中でも画期的」と成果を強調した。合意に向けた交渉で100時間を巡る攻防となっても「ちゃぶ台をひっくり返すわけにはいかなかった」と、決裂は考えていなかったことを示唆した。

 だが、本当に良かったのか、と思う。電通で過労自殺した女性社員の母親は「過労死に至る労働時間を認めるのでしょうか」とコメントし合意を批判した。過労死遺族たちも同じだ。労働問題に詳しい森岡孝二関西大名誉教授は「100時間未満でも過労死は多発している」と指摘する。

 労使合意を「画期的な成果」と評価する連合も複雑だ。ある幹部は「月80時間、60時間でも長いと思う」と認め、神津会長は「原則は月45時間」と強調し「改革のスタートに過ぎない」と、100時間は過渡的な数字だと訴える。

 「働き方改革」の議論を通じ、退社から出社までに一定の休息時間を取る勤務間インターバル制度を導入する企業が増えるなど、改善に向けた動きや考え方が広がる。

 一方で実行計画には、国会提出済みの労基法改正案に盛り込まれている一部労働者を時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」や、裁量労働制拡大も明記された。政府は否定するが、残業の上限規制とは逆の方向性で、過重労働を強いられかねないようにも映る。果たして、長時間労働の抑制は進むのか、今後の議論を注視したい。


=2017/04/21付 西日本新聞朝刊=

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