西日本新聞電子版 1周年記念プレゼント

【意見】「体内時計」はなぜ評価されたか 明石真氏

山口大時間学研究所 時間生物学教授 明石 真氏
山口大時間学研究所 時間生物学教授 明石 真氏
写真を見る

◆ノーベル医学生理学賞

 今年のノーベル医学生理学賞は、生物の体内時計の仕組みを発見した米ブランダイス大のジェフリー・ホール名誉教授(72)ら米国人3人に決まった。

 体内時計という言葉はわかり易いようでわかりにくい。テレビ番組などで、時計を見ずに時間経過を推定する能力を体内時計と呼んでいることがある。しかし、生物学的な体内時計とは、周期的に繰り返される環境変化に適応するために、身体に周期性を与える機能を意味する。例えば、時間が一切わからない洞窟で生活しても、ヒトは24時間に近い周期で活動する。同様に、代謝や免疫などあらゆる体の機能も24時間のリズムを示す。これは、おおむね1日を計る体内時計「概日時計」が体内に備わっているためである。

 自然環境は天体活動によって周期的に変化する。地球の自転により、明暗や気温などの環境因子が24時間の周期で変化する。地球の公転によっても約365日の周期で環境が変化する(季節変化)。生命は誕生以降、絶えずこの周期的環境にさらされており、体内時計を獲得して、この変化をうまく利用できるものが生き残った。例えば、毎日朝が来ることを知っているかのように、早朝まだ眠っていても意思とは無関係に体は活動の準備を始める。外が明るくなってから活動開始しても、他の生物に後れを取るのである。

 しかし、私たちの体内時計は邪魔物に成り下がった。私たちは照明によって生活リズムを自在に変えられる。海外旅行に行くと時差ぼけで苦しむように、生活リズムが乱れると時差ぼけ状態になる。時差ぼけとなれば、仕事はもちろん、学習や運動の効率は著しく低下する。さらに、慢性的になると、睡眠障害をはじめ、精神疾患、心血管病、糖尿病、がん、さらには生殖機能障害のような疾患の原因になることが、最近約10年間の研究によってよくわかってきた。体内時計を正確に理解して体内時計を正常化することは、私たちの生活の質を改善するのみならず現代疾患を予防することとなるため、仕組みの解明に大きく貢献した彼らの研究成果は医学生理学賞にふさわしい。皮肉にも、現代人の乱れた生活リズムがもたらす健康被害が、彼らの研究の重要性をクローズアップしたといえる。

 彼らの研究はなぜ特別なのか。遺伝子をランダムに破壊したショウジョウバエの中に体内リズムが失われている個体が発見されていたのだが、彼らは、1984年、無数の遺伝子の中から概日時計に必須な時計遺伝子「Period」の特定に成功したのである。物質的本体が特定されると研究は爆発的に進む。哺乳類を含む多くの生物の概日時計についても、仕組みの理解が一気に進んだのである。

    ◇      ◇

 明石 真(あかし・まこと)山口大時間学研究所 時間生物学教授 1973年生まれ、北海道出身。京都大大学院博士課程修了。佐賀大助教などを経て、2009年より現職。11年、文部科学大臣表彰科学技術賞を時間学研究所グループにて受賞。


=2017/10/13付 西日本新聞朝刊=

→電子版1周年記念!1万円分賞品券やQUOカードが当たる!!

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]