【意見】問題改善へ 指定医も注視を 横山尊氏

日本学術振興会特別研究員 横山 尊氏 
日本学術振興会特別研究員 横山 尊氏 
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◆旧優生保護法

 19世紀後半に英国で優生学が提唱された。遺伝病の持ち主に断種(不妊手術)も辞さない優生思想はかつて全世界的に多くの賛同を得、米国では1900年代、30年代はドイツや北欧で同時多発的に断種法が制定され、10年代頃から優生思想を受容した日本でも40年に国民優生法が制定された。しかし、同法の断種(538件)は不徹底とされ、48年に中絶も抱き合わせにした優生保護法が成立した。本人の同意を伴わない強制不妊手術だけでも計1万6520件にのぼる。

 今年1月、同法に基づき、知的障害を理由に不妊手術を強制された宮城県の60代女性が、「重大な人権侵害にもかかわらず、被害救済のための立法を怠った」などとし、国に1100万円の損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こした。

 同法が96年に優生手術の項目を削除するなどした母体保護法に改正され今年で22年となるため、損害賠償請求権がなくなる民法規定の「除斥期間」(20年)に該当するかが現在の争点だという。しかし、優生手術への謝罪と補償を求める運動は90年代末から継続されてきたのに、厚生労働省などは、優生手術は「当時は合法」の一点張りで救済や実態解明を怠り続けた。今度は司法が「除斥期間」を持ち出すなら、理不尽の極みである。

 ドイツやスウェーデンは優生手術への補償制度を設けた。日本でも、らい予防法違憲国家賠償訴訟で2001年に同法は違憲とされ、小泉内閣の判断で国は控訴を断念した。この際、類似の措置を日本も取ることを強く希望したい。

 旧優生保護法をめぐる謝罪や補償を求める運動は、フェミニスト団体や障害者団体などが進め、昨今新聞社などが本格的に便乗している。しかし、最終的に行政の後押しは不可欠だろう。現在の内閣総理大臣補佐官の衛藤晟一氏は1996年の同法改正の立役者だった。安倍政権は問題改善を図る資格と責務を有すると考える。

 各地の公文書館で優生手術関係史料の掘り起こしが進んでいる。現在の報道で看過されているものの、本当に目を向けるべきは優生保護法指定医の存在だ。同法成立の中心人物、故谷口弥三郎氏(産婦人科医、参議院議員)の意向で同法に指定医制度が盛り込まれ、49年に指定医団体の日本母性保護医協会(現日本産婦人科医会)が発足した。同団体こそ同法の運用では旧厚生省をしのぐほどの実権を握っていた。現在も同団体や全国の元指定医の下に関係史料が眠っている可能性もある。実態を知る関係者の協力も期待したい。そこまで進まねば、同法の運用の全容はいつになっても解明されないだろう。

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 横山 尊(よこやま・たかし)日本学術振興会特別研究員 1978年生まれ、鹿児島市出身、九州大大学院比較社会文化学府単位取得退学。博士(比較社会文化)。主著は「日本が優生社会になるまで-科学啓蒙、メディア、生殖の政治」。

=2018/02/16付 西日本新聞朝刊=

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