ネット活用で愛される楽団に 中村滋延氏

作曲家 九州大名誉教授 中村 滋延氏
作曲家 九州大名誉教授 中村 滋延氏
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◆九響創立65年

 九州交響楽団(九響)は今年創立65年を迎える。5年前の創立60年の際には「九響ビジョン」を制定し、音楽監督として小泉和裕氏を招聘(しょうへい)した。その結果として2015年からは定期演奏会をそれまでの年8回から9回に増やし、新たに年4回の「名曲・午後のオーケストラ」シリーズも開始した。また九響ビジョンを反映して定期演奏会にアジア出身の指揮者や独奏者を積極的に起用し、アジア人作曲家の作品や九州ゆかりの作曲家の作品を取り上げるようになった。

 主催公演数が増えたことで九響の全体としての聴衆増は図られつつある。半面、聴衆が新しいシリーズに流れたせいか、定期演奏会の空席が目立つ。定期演奏会は楽団の看板公演であり、本来なら最も盛り上がるべき演奏会であるはずが、なぜそうならないのか。その原因を間違ってもアジア重視の方針に求めてはならない。

 交響楽団は本来の活動だけでは経営が成り立ちにくい因果な組織である。九響の場合も然(しか)りで、事業支出の半分を補っているのが公的補助金(福岡県と福岡市が同額でその比率はかなり高い)と寄付金である。そこで考えなくてはならないのは、公的補助金は人口比でごく少数のクラシックファンの愉悦のためだけのものではないという点だ。九響の活動が将来をも見据えた地域全体の広がりある文化創造となり、それがファン以外の人々にも精神的豊かさと誇り(シビックプライド)をもたらしてくれると信じるがゆえに、公的補助金は認められている。その点で九響のアジア重視の方針はまさに地勢的・歴史的文脈において適切なもので、独自性において世界的視野での名声を得る可能性にも満ちている。それに向けて必死の努力をしてほしい。

 その努力に関して特に問題と思われるのは九響全体の広報(話題づくり)の姿勢だ。半年以上も九響の公的メールマガジンが理由も示されずに休止したことには驚かされる。文化庁「文化芸術による子供の育成事業」に選ばれて興味深いワークショップを展開しているのに、その話題が九響公式ホームページに見当たらない。このネット時代、ファンのみならず多くの人々と交流をはかり九響の存在を知ってもらうために、会員制交流サイト(SNS)などを積極活用しない手はない。

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 中村 滋延(なかむら・しげのぶ)作曲家 九州大名誉教授 1950年生まれ、大阪府高槻市出身。100曲以上を作曲し、交響曲は九響で演奏された。九響主催のレクチャーイベントも担当する。2010年、福岡市文化賞受賞。

=2018/06/10付 西日本新聞朝刊=

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