科学的知見に基づく対応を 棟上俊二氏

福岡教育大学教授 棟上 俊二氏
福岡教育大学教授 棟上 俊二氏
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◆災害リスク評価

 今から約6千年前の縄文時代には「縄文海進」という現象が起こっていた。地球が温暖化した時代であったため、現在よりも2~3メートルは海水面が上昇していた。現在平野として利用されている地域の、かなりの部分は海水面下に没していたのである。このような平地は「沖積平野」と呼ばれている。

 国土交通省のホームページによると「国土の10%に当たる沖積平野(河川氾濫区域)に人口の51%と資産の75%が集中している」と説明されている。河川の氾濫を防ぐため、今の日本では堤防を築く事が主要な対策であるが、我々(われわれ)は自然の力がそれを凌駕(りょうが)することを再三にわたり目撃してきた。

 政府(行政)は河川氾濫のようなリスクが存在する場所へ、人口を集中させない方策を講じるべきであろう。圧倒的な利便性と経済性のため、今日のような都市環境が生じたわけだが、昨今の極端気象の条件下ではリスクにさらされる確率は以前よりは高いと考えるべきだ。

 こういった判断に有用な学問として地球科学がある。高校までの理科の科目では地学に当たるものだが、2012年ごろの高校での選択履修率は5%未満といわれ、国民への普及には程遠い現状がある。「地学軽視」の問題を放置してきた責任の一端は自治体の教育委員会と、それを所管する文部科学省にあるといわざるを得ない。

 そろそろ堤防に守られた「安全」にも危うさが潜むことを真剣に検討すべきであろう。土砂崩れなど、斜面災害については地域住民から「いままでこんなことなかった」という意見が聞かれることがある。しかしある場所で土砂災害があってから次の回のが起こるまで、9割方は96年以上の間が空くということも明らかになっている。つまり個人や地域の記憶として残っていないものがほとんどなのである。

 地層を調べると、我々の常識を超えた事象が過去に幾度もあった事が判明している(例えば南海トラフ巨大地震のスーパーサイクルや姶良カルデラ巨大噴火など)。地球科学というものは過去を調べる事に軸足を置いた学問だが、温故知新の実践を通して社会貢献が可能となる。なにより、科学的知見に基づいた大規模災害を考慮したリスク評価が重要である。

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 棟上 俊二(とうじょう・しゅんじ)福岡教育大学教授 博士(理学)。筑波大大学院地球科学研究科博士課程修了。同大学院では岩石学研究に努める。1999年に福岡教育大に赴任、理科教育講座を担当。地学教育に尽力する。

=2018/08/12付 西日本新聞朝刊=

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