厚労省、統計発表見直しへ 賃金上昇率過大「補整はせず」

 厚生労働省の毎月勤労統計調査で賃金上昇率が高めに出ている問題で、厚労省は28日、同統計に関する情報提供の在り方を見直す方針を明らかにした。1月に統計の作成手法を変更した影響で数値が高めに出ていることや、公式統計値より実勢に近い「参考値」を十分に周知できていない現状を踏まえ、公表資料の拡充や発表手法の改善を検討する。公式統計値の補整はしない方向。有識者らが公的統計の在り方を検討する政府の統計委員会(委員長・西村清彦政策研究大学院大学特別教授)に同日報告、了承された。

 この日の会合では、統計委側が景気指標として賃金上昇率をみる場合、手法変更の影響を除いてはじいた参考値を公式統計値よりも「重視するのが適切だ」との見解を表明。厚労省に分かりやすい説明や公表資料の改善を求めた。厚労省側は公式統計値が参考値を上回っている現状などを説明、関係資料を同日付でホームページに掲載したと報告した。発表手法の改善策は「今後詰める」としている。

 西村委員長は、厚労省が手法変更に関し丁寧な説明をしなかったことについて「大きな反省点だ」と苦言を呈し「分かりやすい情報提供をしてほしい。場合によっては注意喚起も必要だ」と注文した。

 この問題では、厚労省が調査対象となる事業所群を新たな手法で入れ替えるなどした結果、従業員に支払われる現金給与総額の前年比上昇率が高すぎる状態が続いており、経済分析を手掛けるエコノミストらから疑義や批判が相次いでいる。

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■麻生氏発端、政権に忖度か

 厚生労働省の毎月勤労統計調査の賃金上昇率が高めに出ている問題は、統計の作成手法の変更が原因とされる。そもそもなぜ変更されたのか。経緯をたどると、約3年前の経済財政諮問会議での麻生太郎副総理兼財務相の「問題提起」に行き着く。統計データで賃金上昇をアピールしたい安倍晋三政権の意向を官僚組織が忖度(そんたく)したのではないか-。厚労省は否定するが、経済統計をウオッチするエコノミストからは、そんな疑いの声も漏れる。

 「サンプルの入れ替え時に変動がある。改善策を早急に検討してほしい」。2015年10月16日、首相官邸であった政府の経済財政諮問会議。毎月勤労統計についてこう問題提起したのが麻生氏だった。

 同統計はもともと、調査対象となる比較的大きな事業所について3年ごとにサンプルを総入れ替えし、入れ替えに伴う誤差を補正して数字をはじいてきた。このため15年1月の入れ替えでも、過去にさかのぼって実績値を補正。ところがこの結果、安倍政権が発足した12年12月以降の数字が下振れしてしまった。

 アベノミクスの旗振り役として賃金の動きを注視していた麻生氏。見直しに向けた議論は、この「鶴の一声」に歩調を合わせるように始まった。数字が変動する事後的な補正を避けるため、サンプルは総入れ替えでなく段階的な部分入れ替えとする-。こうした厚労省方針は17年に政府の統計委員会に承認され、18年から実行に移された。

 これにより、統計上の賃金上昇率は急伸する。

 「賃金伸び 21年ぶり高水準」。8月上旬、全国紙や通信社の記事にこんな見出しが躍った。6月の現金給与総額(速報値)は前年同月比3・6%の急上昇。力強い賃上げが実現したかのような数字だった。

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 この結果はどう導き出されたのか。厚労省は1月、調査対象となる約3万3千の企業群(サンプル)の半数弱を入れ替えた。さらに推計値をはじく際に使う企業規模ごとの労働者数データを更新した。これにより賃金上昇率(賞与など除く)は0・8ポイント程度押し上げられたという。17年の平均上昇率は0・4%。看過できない大きさだ。

 しかも厚労省はこうした留意点を、8月末にホームページに関係資料をアップするまで積極的に説明しなかった。毎月の報道発表資料や概況にも明示していない。入れ替えられなかった半数強のサンプルだけで集計し、手法変更の影響を除いた「参考値」は、毎月の公表資料の末尾に記載しているが目立たない。

 今年に入って賃上げが急激に進んだかのような印象は、首相が連続3選を果たした自民党総裁選でも追い風となる可能性があった。ある大手シンクタンクのエコノミストは「厚労省が政権の意向を忖度し、あえて詳細な説明を避けてきたのではないか」と疑いの目を向ける。

 厚労省は西日本新聞の取材に対し「手法変更は統計の精度向上が目的だ」と述べ、忖度を否定した。だが内閣府の統計値「雇用者報酬」も毎月勤労統計と連動する形で過大推計となっている疑いが強く、厚労省だけの問題ではない。

 明白な誤差がある数値と知りながら、十分な説明をせずにメディアや専門家の「誤信」を招きかねない状況が続いたのはなぜなのか。早急な検証と対応が必要だ。

=2018/09/29付 西日本新聞朝刊=

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