拙速幕引き真相遠く 統計不正報告 お手盛り調査中立性疑問 監察委員長口ごもる場面も

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 毎月勤労統計の不正調査問題で厚生労働相が「徹底究明」を誓ってからわずか2週間。厚生労働省の特別監察委員会は22日、調査結果を公表し、同省は幹部職員の処分を明らかにしたが、組織的な関与も隠蔽(いんぺい)も否定。「核心部分」は謎のまま、「幕引き」が強行された。政府、与党が決着を急ぐのは、参院選の惨敗につながった12年前の「消えた年金問題」の二の舞いを避けたいとの思惑があるからだ。

 厚労省の特別監察委員会が22日公表した調査結果は、十分な裏付けもないまま組織的な隠蔽の意図を否定するなど「お手盛り」との批判を免れない内容だ。わずか2回の非公式会合で、事実関係が十分に精査されたかも不透明。賃金上昇率を押し上げた昨年1月の数値補正の経緯についても不自然さが際立ち、真相解明にはほど遠い。厚労省は「これで決着させたい」(幹部)のが本音だが、中立性を高めた体制によるさらなる調査と検証が不可欠だ。

 「信じ難い事態で、言語道断だ」。監察委の樋口美雄委員長(労働政策研究・研修機構理事長)は同日の記者会見でこう述べ、憤りの表情を浮かべてみせた。

 報告書は、不正な抽出調査を容認していたマニュアル「事務取扱要領」について、歴代の担当部長が決裁していた実態を指摘。局長級の幹部がルール違反に気付いて担当者に指摘しても、放置された事例があったことも明らかにした。

 しかし、焦点となっている組織的な隠蔽の有無について、樋口氏は会見で口ごもる場面が目立ち、不正の経緯をしっかり把握できていない様子。別の委員が歴代職員の釈明を追認する形で「意図があると認定するには無理がある」と“助け舟”を出すと、樋口氏は「『組織的不関与』が問題だった」と述べるのがやっと。隠蔽をそもそも疑ったのか報道陣に疑問を抱かせた。

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 厚労省が昨年1月から、本来の調査手法に近づけるための「復元」と呼ばれる数値補正をひそかに行い、その後の賃金上昇率が過大になっていた経緯についても、合理的な説明がない。

 報告書では、当時の担当室長が補正のためのシステム改修を部下に指示していたことを明らかにした。ただ、当時の室長の行為については不正調査を「知っていた」と認定しつつも「隠蔽の意図は認められなかった」とする不可解な解釈を提示。樋口氏は会見で「隠蔽は悪意あってのこと」と解説したが、そうでない十分な根拠は示せなかった。

 補正による賃金上昇率の上振れについても、当時の室長が事前試算によって「0・2ポイント程度」の影響が出ることを把握していたことを明らかにした上で「誤差の範囲内であると思っていた」と述べたことを追認。元室長が影響を「過小評価していた」ため、上司への報告など必要な対応を怠ったと結論付けた。

 ただ、2017年平均の賃金上昇率が1%に届かなかったことを踏まえると、「0・2ポイント程度」の上振れが上昇率を大きく押し上げるであろうことは明白。エコノミストからは「当時の室長の認識は不自然と言わざるを得ない」との指摘が早くも上がっている。

 特別監察委は、厚労省内の既存の監察チームから内部職員を除いたことで「中立性を明確化」(根本匠厚労相)したとされるが、省との結び付きが強いのが実情。15年の年金情報流出問題ではより中立性の高い第三者検証委員会を即座に設けたが、今回はそうした厳正な対応が取られなかったことも問題視されそうだ。

■政府参院選へ影響懸念 「消えた年金」トラウマ

 「第三者の目でしっかり調査してもらった」

 根本匠厚労相は22日夕の記者会見で、有識者による特別監察委員会の調査結果の信頼性を強調。処分内容についても「大変厳しい処分だ」と自己評価した。

 根本氏が「事実関係を徹底調査する」と表明したのが今月8日。同委員会が初会合を開き、本格的な調査を始めたのは17日だ。わずか数日の調査で結論を出したことになる。

 安倍政権の最大の懸念は「参院選への影響」だ。安倍晋三首相にとって、12年前の参院選で惨敗し、第1次政権が退陣する一因となった年金問題のトラウマは根深い。自民党関係者は「当時は毎日年金問題がマスコミに取り上げられ、内閣支持率がどんどん落ちた」と顔をしかめる。

 今回の問題は過少給付対象者が延べ約2千万人に上るが、それでも「消えた年金問題ほど有権者は関心がない」(自民党幹部)との見立てだ。首相官邸サイドが厚労省側に「後から問題が出ないようにしっかりやれ」と早期沈静化を指示。参院選に影響を及ぼさないようにとスピード決着に踏み切った。

 だが、あまりに露骨な収束ぶりに批判も高まりそうだ。自民党の岸田文雄政調会長は党本部で記者団に「引き続き明らかにしなければならないことはたくさんある」と実態解明に取り組む姿勢をアピールした。

 24日には衆参両院の厚生労働委員会が閉会中審査を開き、28日には通常国会が召集される。野党は徹底追及に手ぐすね引く。

 立憲民主党の辻元清美国対委員長は、昨年1月に数値の「補正」が実施されていたことについて「首相は『名目賃金が上がり、アベノミクスは大成功だ』と言っていたが、作り出した数字だったことがはっきりした」と批判。「安倍内閣だから隠蔽体質や虚偽、改ざんがあるのではと疑わざるを得ない」と皮肉った。

 共産党の小池晃書記局長は「トカゲのしっぽ切りにしてはいけない。現場の官僚だけの判断で、できるような性格の問題ではない」と述べ、昨年10月の内閣改造まで厚労相を務めた自民党の加藤勝信総務会長の国会招致を要求した。

=2019/01/23付 西日本新聞朝刊=

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