統計変更、政権の意向は? 秘書官「問題意識」→厚労省検討会→財務相「改善を」 野党「賃金上振れ狙い」

写真を見る

 厚生労働省の毎月勤労統計で、昨年1月以降の賃金上昇率が異常な上振れを示すことになったのは調査手法が変更されたためだった。厚労省はなぜ従来のやり方を変えたのか。経緯を検証すると、賃金上昇率の伸びでアベノミクスの成果を示したかった安倍晋三政権の意向が浮かんでくる。

 発端は2015年1月にさかのぼる。厚労省はこれまで定期的に行ってきた通り、この月から調査対象となる従業員30~499人の事業所を総入れ替えした。同時に従来通り、前年と比べやすくなるよう過去の公表値も改定した。

 ところがこれで14年の数値が下方修正され、同年の賃金上昇率がプラスからマイナスに転落する月が出てきた。政府主導の「官製春闘」が注目され、政権が賃上げの実現に躍起になっていた時期と重なる。

 厚労省は「先回り」した。政府の説明によると、同省幹部2人が15年3月31日、中江元哉首相秘書官に公表値の下方修正を説明。中江氏はその際、「実態を適切に表すための改善の可能性について」の「問題意識」を伝えたという。これを機に、調査手法の変更が厚労省の「宿題」となる。

   ×    ×

 6月3日、厚労省は有識者会議「毎月勤労統計の改善に関する検討会」を設置、初会合を開いた。「アベノミクスの成果ということで賃金の動き、特に実質賃金の動きが大きな注目を浴びている」。厚労省の姉崎猛統計情報部長はこうあいさつした。

 委員の一人は当時、厚労省の職員から「首相官邸が『マイナス改定』に怒っている」と聞かされていた。どうすれば数値の大幅な修正を避けられるか。検討会で浮上したのが、調査対象を毎年少しずつ入れ替える「部分入れ替え方式」だった。

 これだと、総入れ替えのように過去の公表値の改定をしなくて済む可能性があった。ただ、委員からは調査コストの面から慎重論も出た。座長の阿部正浩・中央大教授は「(従前の)総入れ替え方式が適当」と消極的だった。

 9月16日、阿部氏が欠席した第6回会合でまとめられた「中間的整理」は方向性を示さず「入れ替え方式は引き続き検討」とされた。公表された議事録によると、姉崎氏はその場で「また検討会を開催する」と発言しているが、会合はこれを最後に立ち消えた。

   ×    ×

 10月16日、政府の経済財政諮問会議が開かれた。「統計委員会でぜひ、具体的な改善策を早急に検討してほしい」。賃金上昇率の下方修正を表す折れ線グラフを示し、こう要望したのは麻生太郎副総理兼財務相だった。検討の舞台は厚労省を飛び越え、総務省統計委に移る。

 統計委は12月に議論を開始。翌16年3月にまとめた報告書には、くしくも「部分入れ替え方式」導入が盛り込まれた。厚労省はこれを受け「過去の数値の改定はしない」ことを前提に、部分入れ替えとする手法変更を総務相に申請。17年2月に承認を受けた。

 この手法変更により18年1月以降、同統計の賃金上昇率は急伸した。厚労省は0・8ポイント程度の上振れを認め、このうち約0・5ポイントが入れ替え方式の変更などの影響と分析。野党は「賃金上昇率を上げるための変更だった」とみる。官邸サイドの意向をくんだ調査手法の変更だったのか、実態解明はまだ途上だ。

=2019/02/16付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]