友だち100人要りますか?

 毎年この季節、どこからかこの歌が聞こえてくる。

 「1年生になったら、友だち100人できるかな」

 根があまのじゃくな私は聞くたびに思ってしまう。

 友だち100人も要りますか?

   ◇    ◇

 この歌の作詞は、まど・みちおさん。「ぞうさん」などの童謡で知られる国民的詩人である。

 そのまどさんに私などが異を唱えるのは百年早い。それを承知であえて言うのは、この歌に象徴される「友だちは多い方がいい」の価値観が、友だちができない人たちへの無言の圧力になっていないか、と気になるからだ。

 春は進学、就職、異動や転居などあり、往々にして所属する集団が変わる。なかなか人の輪に入っていけない人もいるだろう。

 友だちができたらできたでまた大変だ。インターネットの会員制交流サイト(SNS)によって人間関係が常時接続されている時代。一日中スマホで仲間からのメッセージをチェックする必要に迫られる。

 鋭い社会批評で知られる精神科医の香山リカさんに聞いてみた。

 -若者が「友だち問題」で苦労しているのでは。

 「本当に寂しくて人と仲良くしたいのなら別ですが『独りぼっちだと見られたくない』との理由で、無理に友だちづきあいして疲れている若者が多いんです」

 「春は『ママ友づくり』が始まる時期でもあります。本当に気の合う人がそんなにいるわけじゃないので、しばらく距離を置くとかあっていいのに、本人が『孤独な人と思われるのがいや』と考えるんですね」

 -そもそも友だちって、何人いればいい?

 「そうですねー。私の知ってる評論家とか元政治家とか、人脈の広かった人たちがみんな言うのは『数え切れない人たちと名刺交換してきたが、今はほとんど付き合っていない。昔の友人数人と会うのが一番いい』ってことですね」

 -適正規模は「生涯で数人」ってところですか。

 「そこにたどり着くのに、みんな苦労してるんですよね」

   ◇    ◇

 こんなきっぱりした題の本を見つけた。「やっぱり友だちはいらない。」(東京ニュース通信社)。著者は世界的に知られるアニメ映画監督の押井守さんだ。

 この本で押井さんは「自分に友だちはいない」と断言する。もっとも押井さんにとって友だちとは「自分がイラクで失踪したときに、後先考えず、すぐに飛行機に飛び乗って現地に来てくれる人」だという。そりゃちょっとハードル高すぎだと思うのだが…。

 押井さんは「友だちは死んだ人でもいい」として、読書を勧めている。好きな作家を見つけて、その人の書物をたくさん読めば「現実に知り合った人、みんなが言う“友だち”なんかより親しくなれる」

   ◇    ◇

 私自身も友だちは相当少ない。何しろこの正月に書いた年賀状が4通である。人脈の広さを競う新聞記者業界にあって、自分でも「大丈夫か? 俺」と心配になるほどだ。それでも、何とかこの仕事やってます。

 老若男女を問わず「友だち」で悩む人たちが、「100人」から解放され、春の日差しを楽しむことができますように。

 (論説副委員長)

=2018/04/15付 西日本新聞朝刊=

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