そもそも「脅威」って何だ?

 歴史的な米朝首脳会談を経て、朝鮮半島の緊張状態は緩和に向かっている。

 しかし安倍晋三政権の対応は、ちぐはぐな印象である。政府は北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えた自衛隊の警戒態勢を一部緩和した。その一方で、1基あたり1千億円もする地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の2基導入を予定通り進める方針だ。小野寺五典防衛相は導入の理由として「北朝鮮の脅威は何も変わっていない」と説明している。

 そこで気になるのが「脅威」という言葉だ。古くは「ソ連の脅威」、最近では「北朝鮮の脅威」「中国の脅威」が叫ばれるが、そもそも「脅威」って何だ?

   ◇    ◇

 安全保障における「脅威」とは、主に他国からの攻撃や侵略の恐れを指す。安全保障の専門家の間では、脅威の度合いは「わが国を攻撃する能力」掛けるの「わが国を攻撃する意思」とされる。方程式にすれば

 能力×意思=脅威

 ということだ。足し算ではなく、掛け算であるところがポイントである。

 分かりやすい例で考えてみよう。わが国を攻撃する能力が最も高いのは、実は米国だ。膨大な核ミサイルを保有し、首都圏に空母配備の横須賀基地や厚木飛行場を置く。その気になれば、簡単に日本中枢に大打撃を与えるのも可能だ。

 しかし、われわれは米国を「脅威」とは考えない。わが国を攻撃する意思がゼロとされるからだ。能力を最大値の100としても

 100×0=0

 となるのである。

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 北朝鮮は以前、ゲリラ活動や特殊部隊を除き、日本を大規模に攻撃する能力が低かった。それが核やミサイルの技術を獲得したため、攻撃の能力が上がった。ゆえに日本にとって「深刻な脅威」になった。

 一方、ソ連(現ロシア)は冷戦時代、日本に対する最大の脅威と位置付けられてきた。しかし冷戦終結で日本を攻撃する意思が大きく低下したと判断され、能力にそれほど変化はなくても、脅威度は下がった。

 こうした例から何が分かるのか。脅威を取り除くには、相手の「能力」を弱める方策と同時に、「意思」を低下させることも重要で効果的だということだ。

 相手の日本を攻撃する意思を低下させる-。「仲良くする」という言葉に置き換えることができる。

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 もちろん、拉致問題を抱える北朝鮮とすぐに仲良くしろと言っても、国民感情として困難だ。拉致問題解決が日朝の関係構築の前提になるのは当然である。

 しかし、もともと北朝鮮が日本に対し安全保障上の敵意を抱いている理由は、日米同盟と米軍基地があるからであり、日本単独の軍事行動に大きな警戒感を持っているわけではない。

 米国のトランプ政権が北朝鮮の体制の安全を保証し、米朝戦争の危険が遠のいた現時点で、北朝鮮の日本に対する「攻撃の意思」は大幅に下がっているはずだ。「脅威」の度合いは低下したと見るべきだろう。

 脅威というのは常に「脅威をあおれば得をする」勢力によって水増しして宣伝される恐れがある。ごまかされないよう、脅威をきちんと見積もる必要がある。そのためにも「脅威の方程式」を頭に入れておきたい。

 (論説副委員長)

=2018/07/08付 西日本新聞朝刊=

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