「かわいそう」のその次に

 東京都目黒区で5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんが虐待を受けて死亡した事件は、社会に大きな衝撃を与えた。

 結愛ちゃんが両親に向けて「もうおねがい ゆるして ゆるして」と書いた手紙を読み返すだけで、胸のつぶれる思いがする。

 この事件が起きてから、私にはずっと気になっていることがある。私たちがこの事件をどう受け止めるか、というようなことだ。

 ほとんどの人は「かわいそう」と悲しみ、同情する。「親を厳罰に処すべきだ」と怒る人もいるだろう。児童相談所の不手際に着目し、批判の声を上げる人もいるかもしれない。

 悲しみ、怒り、批判-。それぞれに、もっともだ。ただ、そうした「思い」だけでいいのだろうか。私たち普通の市民が、虐待の悲劇を繰り返させないために、明日から何かできる「行動」はないのか。そう考え、児童虐待防止協会の津崎哲郎理事長に聞いた。

   ◇    ◇

 私の漠然とした質問に、津崎理事長は分かりやすく具体的に答えてくれた。

 「第一に、他人の子供に関心を持ってください」

 「他人の家庭や子供に口を出さないという風潮がありますが、そうなるとこうしたケースが見過ごされ、救済の機会を減らしてしまう。『社会が子供を育てる』の原点に立ち返りたい」

 「次に第二。関心を持って見ていて、気になる子がいたとします。夜中なのにいつまでも外にいるとか、親に不自然なほど強く当たられているとか」

 「『虐待かどうかわからない、疑いの段階』でも通告(通報)してください。通告先は市町村の児童課や児童相談所。緊急を要しそうなら警察でもいい。通告のチャンスを逃さないよう『疑えば通告』です」

   ◇    ◇

 「第三。自分にも可能な児童支援活動に参加してください。虐待で保護されるなど、家庭で養育できない子供の支援は基本的に行政が行いますが、民間団体も行政とタイアップして支援活動をしています。そこに関与することができる」

 「例えば児童養護施設で暮らす子供を里親として引き取る。そこまでの余力がなければ『週末里親』や『一日里親』の制度もあります。そのほか、貧困などのハンディを抱えた家庭やその子供を、食事提供や学習指導で支援する活動も有効で、子供の見守りにもなります。そうした活動に参加する時間がないという人は、資金提供(寄付)で側面支援してもいいんです」

 「第四。『10秒子育て』というのがあります。ほんの10秒間、他人の子育てに関与することです」

 「例えば日本では電車にベビーカーで乗ると、周りが迷惑そうな目で見る。そうではなくて『赤ちゃん、元気そうですね』とプラスの声かけをすれば、親のストレスが減る。社会からの孤立を防ぎ、ひいては虐待防止につながるんです」

   ◇    ◇

 先週、私は結愛ちゃんが住んでいたアパートを訪れた。三重県から来たという女性が「孫と同じ年だったので…」と声を詰まらせながら、アパートの前に花を供え、手を合わせていた。

 津崎理事長のアドバイスの中には、比較的簡単にできそうなものもある。「かわいそう」に終わらせず「かわいそう」の次に何をするか。考えてみませんか。

 (論説副委員長)

=2018/07/15付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]