ある中国研究者の憂い

 中国に関する書籍をネットで買おうと検索していて気付いたことがある。タイトルに中国の「崩壊」をうたった本が、やたらと多いのだ。題名だけ目で追っていけば、まるで中国の経済や社会は明日にでも崩壊しそうな気がしてくる。

 しかし、発行された年をチェックすると、10年前とか5年前とかに出版された本が結構あるではないか。おいおい、それから随分たってるけど、崩壊してないぞ! ノストラダムスの大予言かい!とパソコン画面に突っ込みたくなる。

 ただ、現在も書店にこの種の「中国崩壊本」が並んでいるところをみれば「崩壊本」には一定の需要があるようだ。その辺の事情を中国研究者で拓殖大学教授の富坂聰(さとし)さんに聞いた。

   ◇   ◇

 -中国経済、崩壊しますか?

 「私も2012年までは中国がかなり大変な状況にあるとの見立てをしていました。しかし現在は、たとえ中国経済が2~3年停滞するような事態が起きたとしても、崩壊はしないとみています。ハイテク化の中、中国が世界で一定のポジションを取っていくことができれば、中国の成長はかなり長く続くでしょう」

 -なぜこんなに「中国の崩壊」をうたった本が出ているのでしょうか。

 「一言で表現すれば、日本人の願望ですね」

 -願望?

 「自分たちが中国より上、という意識があるため、現実の中国の台頭を認めたくない。嫌な現実を受け入れるより、ファンタジーとしての中国崩壊論を読んでいたい、という心理ではないでしょうか」

 -読者のニーズに出版社が応えている構図ですか。

 「中国は広い国なので、ありとあらゆる材料がある。その材料をうまく使えば、中国が崩壊するという本も、10年後に中国が世界一になるという本も、すぐに書くことができます」

 「実は私も二つの出版社から『中国が今すぐ崩壊するという本を書いてくれ』と頼まれたことがあります。『むしろ逆ですよ』というと引かれましたけど」

   ◇    ◇

 富坂さんは、中国やアジア諸国に対する日本人のこうした負の感情が、政府の外交方針にまで影響を与えるのではないか-と憂慮している。

 「外交が大衆の熱狂にさらされると政府が引きずられる。外交が大衆化すると判断が単純化し、イエスかノーかになってしまう」

 「感情で国際情勢を分析してはいけない。『いいか悪いか』ではなく『わが国にとって得になるか損になるか』で判断する。政治家は、どちらに転んでも大けがをしない、という外交を追求すべきなのです」

   ◇   ◇

 これから日本が中国と共存共栄を目指すにしろ、ライバルとして競うにしろ、その強さと弱さをトータルに分析することが戦略の前提となる。強みから目をそらし、弱点だけを繰り返し読んで喜んでいるようでは判断を誤りかねない。

 富坂さんはこうした問題意識から今年5月、「感情的になる前に知らないと恥ずかしい中国・韓国・北朝鮮Q&A」という初心者向けの解説書を出した。先日、近所の書店に行ったら「崩壊本」に挟まれるように並べてあった。「健闘を祈る」と書棚に声をかけた。

 (論説副委員長)

=2018/09/30付 西日本新聞朝刊=

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