安倍外交に期待したけど

 「戦後日本外交の総決算」なのだそうだ。自民党総裁選で連続3選を果たし、内閣改造で新布陣を整えた安倍晋三首相が掲げるスローガンである。総決算とは具体的には対ロシア、対北朝鮮外交を指すのだろう。

 私は以前このコラムで、首相が「外交上手」とされるのは、外交を「しているふり」がうまいだけではないか-と疑問を呈した。その見立ては変わっていないので、首相が「総決算」と意気込んでみせても、特に反応する気はない。

 ただ、読者は意外に思われるかもしれないが、2012年に安倍氏が民主党から政権を奪回し、第2次政権を発足させて以降、私は「安倍政権は外交でかなりの成果を上げる可能性がある」と期待していたのである。安倍政権が外交で有利に作用する二つの条件を備えていたからだ。

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 好条件の一つ目は、安倍首相の政権基盤が安定していることだ。政権復帰後も選挙で勝ち続け、首相在任期間は戦後3番目の長さである。このままいけば戦前戦後を通じて最長の政権となる可能性さえある。

 小泉純一郎首相が退陣した後、自民党-民主党政権下で首相がほぼ1年で交代する異常事態が続き、日本外交は著しく停滞した。トップが頻繁に替わっていては、機微に触れる外交など進められるはずもない。

 その点で長期政権は違う。たとえ周辺国が安倍首相の政治姿勢に不信感を抱いていたとしても、向き合って対話せざるを得ない。そういう意味で政権の安定は外交の必須条件である。

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 もう一つの有利な要因は、安倍首相が国内政治において「保守タカ派」と位置付けられていることだ。

 逆に不利ではないか、と考えがちだが、実は「保守派」「タカ派」とされる政治家が、敵やライバルとみなされていた相手国と大胆に交渉し、行き詰まっていた局面を転換させるケースはしばしばある。

 典型的なのが米国のニクソン大統領だ。共和党の強硬な反共主義者と見られていたが、中国との劇的な関係改善で世界をあっと言わせ、泥沼のベトナム戦争からの撤退を実現した。

 ふだん「タカ派」「強硬派」と思われているからこそ、たとえ相手と妥協しても国内支持層からの納得を得られやすい。ゆえにリスクを取りやすい-という政治力学が働くのである。

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 しかしこれまでのところ、安倍政権はこの有利な条件をほとんど生かしきれていない。私の当初の期待は裏切られている。

 安倍外交はよくやっている、と評価する向きもあるが、他の長期政権と比べれば差は歴然だ。戦後の長期政権と言えば吉田茂と佐藤栄作である。吉田政権は講和条約で日本を国際社会に復帰させ、佐藤政権は沖縄返還を成し遂げた。いずれも歴史的な業績だ。

 安倍政権はこの両政権に在任期間で迫っているにもかかわらず、特筆するほどの外交成果を上げていない。田中角栄政権は安倍政権の半分以下の任期だったが、日中国交正常化という難事業を達成している。

 外交の「本気度」とはつまるところ、批判やリスクをどれだけ覚悟して交渉に当たるかなのだ。「してるふり」「得意なふり」ならもう十分である。

 (論説副委員長)

=2018/10/07付 西日本新聞朝刊=

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