名尾和紙、伝統守り挑戦 大和町に工房1軒、若者向けに新ブランド 記者も手すき体験 [佐賀県]

原料に使用している梶を栽培している畑。原料から自家生産するのは全国的にも珍しいという
原料に使用している梶を栽培している畑。原料から自家生産するのは全国的にも珍しいという
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原料を簀桁ですくい、手すき和紙作りを体験する記者
原料を簀桁ですくい、手すき和紙作りを体験する記者
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圧搾した紙は一枚ずつ「乾燥板」に貼り、乾かしていく
圧搾した紙は一枚ずつ「乾燥板」に貼り、乾かしていく
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すいたはがき用の和紙を定規で調える7代目の谷口弦さん
すいたはがき用の和紙を定規で調える7代目の谷口弦さん
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展示館では昨年発売したマイルペーパーブックなど多様な商品が並ぶ
展示館では昨年発売したマイルペーパーブックなど多様な商品が並ぶ
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 佐賀市大和町の名尾地区で約300年前から伝わる県重要無形文化財の名尾和紙。全盛期は地区内に約100軒の工房があったというが、今は「名尾てすき和紙」の1軒のみ。その魅力を探ろうと工房を訪ね、7代目の谷口弦さん(27)の案内で記者も手すき和紙づくりを体験してみた。

 佐賀市中心部から車で北へ約30分。田畑が多く、青々としたのどかな風景が広がる。柿の木があちこちに点在しているのは干し柿が名産の同地区ならではだ。

 和紙づくりはもともと農家の副業として広がったという。原料は地域に自生していたとされる梶(かじ)の木。他の植物と比べて繊維が長く、よく絡むため、強度が高いのが名尾和紙の特徴だ。

 名尾和紙づくりは梶の木を育てるところから始まる。工房近くの畑で1年育てて刈り取り、蒸して皮をはいだ後、大釜で煮て繊維をよくほぐす。紙すき工房の多くは原料の植物を買い付けており、自ら栽培するのは珍しいという。「成長しすぎていない質の高い原料を確保することで、良い紙ができる」と谷口さん。

   ◆    ◆

 谷口さんの案内で工房に入った。室内にはほのかな甘い香りが漂う。繊維をなめらかにするために加えられるトロロアオイの根から採取した粘液「ねり」から発せられたものだった。箱形の「漉(す)き船」には、梶の繊維とねり、水を調合した原料が入っている。

 記者も早速手すきを体験した。木枠に細かい編み目の「簀(す)」を張った「簀桁」を両手で持ち、原料をすくい上げる。左右、上下に振って余分な原料をすき落としていくが、洗面器を満たす水を入れた程度の重さがあり、なかなか難しい。しかし、きちんと振らなければ均一な厚みの紙にはならない。

 「これは厚みのあるはがきに使うくらいの濃度の原料だから、粘り気があってすきやすいですよ」。そう話す谷口さんが自在に操る簀桁は、はがきサイズの紙を一度に20枚分すくことのできる大きなものだ。ジャブジャブという水音を立てながら、真剣な表情ですいていく。

 隣の漉き船では谷口さんの父で6代目の祐次郎さん(52)が、卒業証書用の紙をすいていた。船によって原料の濃さが違い、厚みが異なる紙が作れるという。すいた紙は積み重ねて圧搾機に掛けて水を搾り、乾燥板に張って乾かす。梶の栽培から1年がかりで和紙ができあがる。これらの工程は全て手作業だ。

   ◆    ◆

 工房では伝統的な和紙作りを継承しつつ、新たな挑戦も続けている。

 工房近くの展示館では、染色や透かし模様が施された色とりどりの和紙のほか、ブックカバーやランプなど多様な商品が並ぶ。

 昨年、県の事業をきっかけに若者に向けた新ブランドを立ち上げた。和紙でできた本形の箱に記念の品やメッセージカードを保存できる「milepaper book(マイルペーパーブック)」を発売。通気性が良い和紙の利点を生かした品は全国で売られ、好評という。「伝統を守りつつも、いかに和紙で遊べるか。最後に残った工房だからこそ可能性は広がっている」。谷口さんは前を見据える。

 工房では平日に見学を受け付けているほか、15人以上から手すき体験もできる。問い合わせは名尾てすき和紙=0952(63)0334。

=2018/06/14付 西日本新聞朝刊=

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