増加するヘルパーの労災 腰守る「抱え上げない」介護用具に期待 [佐賀県]

ベッドから車椅子への移動を助ける「スライディングボード」を使った実演
ベッドから車椅子への移動を助ける「スライディングボード」を使った実演
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滑りやすい「スライディングシート」を敷けば、ベッドの上で体を動かしやすくなり、ヘルパーの負担が軽くなる
滑りやすい「スライディングシート」を敷けば、ベッドの上で体を動かしやすくなり、ヘルパーの負担が軽くなる
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ひじまで入る滑りやすい「スライディンググローブ」を着けると、ベッド上で体の下に手を入れやすくなる。体勢のねじれを整え、床ずれ防止につながるという
ひじまで入る滑りやすい「スライディンググローブ」を着けると、ベッド上で体の下に手を入れやすくなる。体勢のねじれを整え、床ずれ防止につながるという
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ベッドからの移動に役立つ電動リフトの実演
ベッドからの移動に役立つ電動リフトの実演
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 県内の介護現場でヘルパーの労災が増えている。その多くは腰痛。要介護者を抱え上げる際に痛めるケースが多いという。背景には人手不足で若い人が集まらず、介護する側も高齢化する“老老介護”の実態がある。労災で仕事を休めば、負担が増した他のヘルパーも腰痛になりかねない。そんな悪循環を断ち切ろうと介護用品を使う「脱・人力介護」が注目されている。

■車椅子への滑り台

 佐賀市で介護や福祉の用具を展示する「県在宅生活サポートセンター」の一室。「抱え上げない介護」と題した研修会が6月にあり、ヘルパーやサービス管理者ら約40人が商品の実演を食い入るように見つめた。

 ベッドから車椅子へ滑るように移動する際に用いる「スライディングボード」。プラスチック製の板(縦約60センチ、横約40センチ)の表面が滑らかに加工され、滑り台のような役割を果たす。

 車椅子への移動は「緊張の一瞬」という。要介護者を抱えて移す際に床に落としたり、ヘルパーが腰を痛めたりする危険をはらむ。実演を交えた専門家の説明に「うちの施設にもほしい」との声が上がった。

 記者も体験した。ベッド脇に座った状態から尻をボードに乗せて車椅子の方へずらすと、少しの力でスルッと移ることができた。さらに「スライディングシート」と呼ばれるナイロン製シーツをベッドに敷けば体が滑りやすく、作業が楽になる。研修会では約10種類の介護用具を紹介した。

■忙しくて力任せに

 ただ、介護用ベッドを製造、販売するプラッツ(福岡県大野城市)の高屋玲営業推進課長は「介護用具は現場には、ほとんど広がっていない」と話す。

 受講したヘルパーの中には「手間が増えて面倒なので自分で抱えた方が早い」との声もあった。1人で複数のお年寄りを介護するため忙しく、時間がかかる移送用リフトは施設にはない、と打ち明ける人もいた。基山町の施設で働く40代の作業療法士は「寝たきりのお年寄りの入浴はヘルパーが2人がかりで体を持ち上げている」と話す。

 そうした無理が重なって腰痛が相次ぐ。佐賀市内の介護施設に勤める女性(69)は最近2度、腰を痛めた。いずれもベッドから車椅子へ要介護者を移す時だった。両脇に手を入れて抱え上げようとして床に落としそうになった。力を入れた瞬間、腰に鈍い痛みが走り、しばらく動けなくなった。職場に十数人いるヘルパーは50~60代が大半。40代は「若手」と呼ばれるという。

 介護用品の普及を唱える佐賀大大学院医学系研究科の松尾清美准教授は「年配のヘルパーが力任せに仕事することが腰痛を生む最大の原因」と話した。

■働きやすい職場へ

 佐賀労働局によると、2017年の県内の労災事故のうち、社会福祉施設は前年比25件増の94件。製造(前年比23件増)や建設(同12件増)、運輸交通(同10件増)に比べて増加件数が目立つ。年齢別でも50歳以上の割合が64・9%で全産業(53・1%)で突出した。同局は県内約890の介護施設に事故防止の注意文書を初めて一斉送付した。

 介護現場は慢性的な働き手不足にも陥っている。4月には県内初の人手不足を理由にした倒産もあった。介護用品を使った「脱・人力介護」はヘルパーの労災防止に役立ち、作業負担も軽減すると期待される。

 「働きやすい職場になれば、人手不足も解消するはずだ」。松尾准教授はこう指摘した。

=2018/07/05付 西日本新聞朝刊=

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