憲法施行70年 世代超えて紡ぐ理想こそ

 グローバリズム(地球主義)の後退と、ナショナリズム(国家主義)の再来-。歴史の歯車は逆回転しつつあるのか。国際社会が新たな試練に直面しています。

 英国の欧州連合(EU)離脱、米国第一を掲げるトランプ政権の誕生、極右政党の台頭で揺れるフランス大統領選…。欧米諸国の混迷ぶりに象徴されます。

 日本国憲法の施行から今日で70年。わが国も変容の波にのまれていないか。「国のかたち」を改めて見つめ直したい、と思います。

 ●前文を読み返して

 絶え間ない戦火、国境をさまよう難民や移民、拡散するテロ…。国際社会が恐怖の連鎖にさらされる中で、私たちが読み返したい一文があります。憲法の前文です。

 不戦の決意と国民主権を宣した前文は、さらにこう続きます。

 「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」

 「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる」

 「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」

 前文はとかく「古めかしい」「時代遅れ」とみられがちですが、国際協調を希求する理念そのものに異論の余地はありません。むしろ今の時代に照らすと、2度の大戦の教訓が包含された憲法の普遍性と先進性がくっきりとします。

 ●安保法の実体は…

 日本近海で今、多数の米軍艦船が展開し、自衛隊との共同訓練などを続けています。政府は安全保障関連法に基づく初の「米艦防護」任務を自衛隊に命じました。北朝鮮の脅威や中国の軍事大国化などを念頭に、日米連携を確認・強化する取り組みは重要です。

 ただし、安保法の本質は何か、目を凝らす必要があります。集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊の活動領域を拡大したことは安保政策の大転換にほかなりません。米軍と自衛隊の一体化が進む先に何が待ち受けているか。

 安倍晋三政権下では、武器輸出の緩和、他国軍への支援を含む「開発協力大綱」の策定、防衛費の拡大なども進んでいます。これらを含め総体としてみると、日本の平和主義や国際貢献の形は変質していないか。安倍首相が唱える「積極的平和主義」には懐疑の目も向けられています。

 戦後70年余を経て、日本を取り巻く情勢が変化したことは事実です。国民が憲法に関心を持ち、その在り方を考える機運が広がっていることは歓迎します。「9条」に限らず、災害対応、教育、選挙制度、国と地方の関係など、論点は多岐に及んでいます。

 気掛かりなのは、永田町で「改憲ありき」の議論が先行し、改憲自体が目的化している印象が否めないことです。日本の諸問題が憲法の条文の過不足に起因するのか、今の政治が憲法の精神をおろそかにしているのか。私たちは実相を見極め、将来世代への負担や恩恵、諸外国との互恵関係などにも目を向けなければなりません。

 憲法はあくまで国家権力を縛るものであり、為政者の独善や権限強化を意図した改憲が許されないことは論をまちません。

 ●終わりのない営み

 「憲法というものは、私たちが世代を超えて作り上げていく、未完のプロジェクトである」

 戦前生まれの憲法学者で、一昨年、85歳で亡くなった奥平康弘さんが繰り返した言葉です。

 憲法は、あれば済むというものではない。歴史の教訓から生み出された理想を世代間で受け継ぎ、未来への想像力を働かせながら紡いでいく-そんな終わりのない営みである、という視座です。

 崇高な法規範があっても、それを生かし続けることは容易ではありません。時代とともに国内外の情勢が揺れ動く中で、国家の理想がいつしか見失われ、人権が脅かされてゆく-。そうした歴史の轍(てつ)にいかにあらがうか。

 憲法70年の歩みは尊く、かつ私たちに試練を課しています。メディアの役割も含め、日本の針路を真摯(しんし)に見据えたいと考えます。


=2017/05/03付 西日本新聞朝刊=

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