米朝首脳会談 非核化へ明確な道筋描け

 米朝の歴史的な会談は、朝鮮半島に残る冷戦構造を終わりに導くのだろうか。

 トランプ米大統領と金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談が12日、シンガポールで行われた。

 会談でトランプ大統領は北朝鮮に「安全」を保証し、金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への決意を示した。

 激しく対立していた両国の指導者が直接握手を交わすシーンは、国際社会に朝鮮半島の緊張緩和を実感させた。

 ただ、会談では非核化の目標設定やプロセスは後回しにされた。北朝鮮がこれから、本当に真剣な姿勢で核放棄に向かうかどうかはまだ不透明だ。

 今回の会談は複雑で困難な交渉の始まりにすぎない。

 会談を政治ショーに終わらせず、東アジアの長期的な安定につなげるためには、米国をはじめ関係国が北朝鮮の完全非核化という原則を譲らず、効果的なプロセスを粘り強く練り上げ、実行していくほかはない。

 ●曖昧な合意に懸念

 焦点の非核化を巡っては、両首脳は大ざっぱな目標を確認するにとどまったようだ。

 両首脳が署名した共同声明では「板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に取り組む」としている。

 非核化の中身やそのプロセスについては、具体性がほとんどない。トランプ氏も会談後の記者会見で「非核化は時間がかかる」などと述べただけだ。

 これまで米国や日本は、北朝鮮に対し「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」を求めてきた。共同声明にはこの原則が盛り込まれず、北朝鮮側がCVIDに同意したのかどうかは読み取れない。すでに保有する核兵器を破棄する意思があるのかも分からない。不安を抱かざるを得ない。

 具体的な非核化の行程表づくりは、さらなる首脳会談や外相レベルの協議に委ねられた。

 米国および関係国は、北朝鮮にCVIDでの非核化を早期に達成させるという原則を譲ってはならない。制裁緩和や経済支援などの見返りも、北朝鮮が核兵器や関連施設の申告や検証で誠実な態度を見せ、非核化への「本気度」を明確に示すまで待つべきである。

 ●緊張緩和には効果

 共同声明には、両国が「新たな米朝関係の確立」に向けて協力するとの文言が盛り込まれた。トランプ氏は会見で、現在「休戦」状態である朝鮮戦争についても「間もなく終結するという希望を持つことができるようになった」と述べた。

 非核化で具体的な成果がほとんどないまま、今回の会談で北朝鮮に「安全」を約束し、米韓合同軍事演習の中止まで示唆したことには、米国が焦り過ぎだとの批判もあるだろう。

 しかし、両首脳が直接対話して信頼関係を醸成したことは、率直に歓迎したい。昨年まで軍事衝突が取り沙汰されるほど緊張が高まっていたことを思えば、驚くほどの局面転換だ。

 北朝鮮との交渉はトップが決断しないと始まらない。今回つなげた首脳同士の回路を、今後の非核化に生かすべきである。

 ●日本は主体的に動け

 安倍晋三首相は米朝首脳会談に先立ち、日本人拉致問題を取り上げるよう、トランプ氏に再三要請していた。

 トランプ氏は「拉致問題を会談で提起した」と明言した。ただ、単なる問題提起だけなのか、金委員長から解決に向けた言質を取り付けたのか、現時点では判然としない。

 安倍首相は拉致問題の解決を政権最大の課題の一つと位置付け、北朝鮮への圧力路線をアピールしてきた。だが、米国が対話にかじを切った今、局面の変化に取り残されている。

 もともと拉致問題は日朝間で解決しなければならない課題である。日本政府は日朝平壌宣言に基づき、国交正常化とそれに伴う経済支援をてこにして、拉致、核、ミサイルの包括的解決を目指す方針だ。

 しかし安倍政権が圧力一辺倒の対応を続けているうちに、北朝鮮との対話のチャンネルは細っている。まずは対話の回路を修復し、首脳会談も視野に入れた直接交渉で拉致問題の解決を図らなければならない。もう「米国頼み」は通用しない。

=2018/06/13付 西日本新聞朝刊=

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