カンボジア総選挙 民主化の後退を憂慮する

 25年前、日本がカンボジアに抱いた民主化への期待が今、しぼみかけている。

 カンボジアの総選挙が29日に実施される。選挙戦は7日から始まった。泥沼のカンボジア内戦が終結し、国家の再建がスタートして以来、6回目の総選挙となる。

 ただ、今回の総選挙はフン・セン首相率いる与党・人民党の圧勝が確実視されている。フン・セン政権が昨年、最大野党の救国党を解党に追い込んだため、有力な野党が不在のまま選挙が行われるからだ。

 フン・セン首相は約30年間権力を掌握しており、近年では長期政権に対する国民の不満が顕在化している。そうした中、昨年6月の地方選で救国党が躍進し、人民党が伸び悩んだ。これに危機感を覚えたフン・セン政権が、なりふり構わぬ反対勢力の弾圧に乗り出したようだ。

 政権は昨年9月、救国党の党首を国家反逆容疑で逮捕し、救国党の解党を求めて最高裁に提訴した。最高裁がこれを認めたため、同党は解党処分となった。政権に批判的なメディアへの弾圧も強めている。長い伝統ある英字紙が巨額の税金支払いを命じられ、廃刊となった。

 カンボジアでは、ポル・ポト政権による国民の虐殺やその後の内戦で混乱が続いたが、国連の主導で1993年に総選挙が実施され、新たな国づくりが始まった。各国は選挙支援要員を送り、民主化を後押しした。

 この際、日本人の文民警察官と国連ボランティアが武装集団に襲われ死亡している。日本にとっても命懸けの支援だった。

 そのカンボジアで今、政権が批判を力で抑え込んだ選挙を実施し、民主主義を後退させている。強い失望を覚える。

 こうしたフン・セン政権の強権姿勢に欧米諸国は批判を強めているが、政権は気にするそぶりもない。カンボジアでは近年、中国の経済支援や投資が経済成長の原動力となっており、日本や欧米諸国の存在感は低下する一方である。他国の人権状況に口を出さない中国が後ろ盾となったため、欧米の批判に耳を貸す必要はないのだ。

 日本政府はカンボジアの現状を憂慮する一方で、強い政権批判は控えている。選挙支援も予定通り実施した。日本が政権と対立すれば、それがカンボジアの「中国寄り」姿勢を助長しかねないとの判断からだ。

 しかしそれでは、日本政府の人権感覚が「中国と同等」ということになりかねない。政府はカンボジアの民主化を後押ししてきた経験を踏まえ、フン・セン政権に最後まで公正な選挙の実施と、民主主義を尊重した政権運営を求めるべきである。

=2018/07/16付 西日本新聞朝刊=

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