介護離職10万人 仕事と両立できる環境を

 家族の介護などを理由に仕事を辞める「介護離職」を、2020年代の初頭までにゼロとする-。安倍晋三首相が前回の自民党総裁選で再選された際に、そう目標を掲げて3年近くたつが、達成は危ぶまれる状況と言わざるを得ない。

 総務省の17年調査によると、介護や看護を理由に離職した人は年間9万9千人に上った。前回調査(12年)の10万1千人からほぼ横ばいである。
 離職に追い込まれるのは40代から50代が多いという。本人や家族の生活設計は根底から揺さぶられる。職場の中核を担う働き手を失うことは、企業にとっても大きな痛手だ。

 働きながら親などを介護する人は約346万人で、前回調査より55万人増えた。離職の不安を抱きつつ、無理を重ねて仕事を続けている人も多かろう。団塊世代がすべて75歳以上になる25年が刻々と迫る。仕事と介護の両立を支えるため、まずは介護サービスの拡充が急務だ。

 国は在宅と施設の両面で介護の受け皿整備を進めているが、ニーズの増大に追い付いていない。最大の課題は、介護現場の慢性的な人手不足だ。

 特別養護老人ホームが必要なスタッフを確保できず、施設に「空き」はあるのに入居希望者を受け入れられない。そんな事態が各地で起きている。

 人材を確保できない大きな原因は、全産業平均より大幅に低い賃金にあるとされる。

 政府は昨年末、中堅の介護職を想定した、処遇改善策を閣議決定した。離職の歯止めにはなろう。だが、新たな人材を獲得するには、介護業界全体の賃金の底上げが欠かせない。

 企業が介護と仕事を両立できる環境整備に、積極的に取り組むことも肝要だ。

 介護休業制度は分割取得が可能になるなど改善が進んだが、実際に取得している人はさほど多くはない。収入減の不安に加え、「休める雰囲気ではない」といった声が多い。介護休業に対する職場の理解が深まらなければ、制度改善の効果は薄い。

 長時間労働の是正やフレックスタイムの導入など、企業は介護に直面する従業員を支える工夫に知恵を絞ってほしい。

 介護離職者約10万人の約8割が女性だ。安倍政権が掲げる女性活躍推進に水を差す現状と言えよう。なぜ圧倒的に女性が多いのか。国は原因や背景を分析し、実効性のある離職防止策と就業支援策を検討すべきだ。

 人材を確保し、十分な介護サービスを提供することは喫緊の課題だ。しかし、それだけで、介護離職ゼロは実現できない。国はもちろん、企業を含む社会全体で肝に銘じる必要がある。

=2018/08/07付 西日本新聞朝刊=

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