紛争下の性暴力 平和賞を根絶への契機に

 全世界が重く受け止めるべき、断固たる性暴力根絶のメッセージである。

 今年のノーベル平和賞が、アフリカ・コンゴの産婦人科医デニ・ムクウェゲ氏と、イラク人女性ナディア・ムラド氏に贈られることが決まった。

 ムクウェゲ氏は民兵らによる性暴力の被害者の治療を続けている。ムラド氏は過激派組織「イスラム国」(IS)から受けた過酷な被害体験を証言し、性暴力の被害者救済を訴える。

 「身の危険を顧みず戦争犯罪と闘い、被害者のために正義を追求した」とノーベル賞委員会は2人をたたえた。献身的で勇気ある活動が、平和賞に値することは誰もが認めるだろう。

 歴史を顧みれば、戦いが起こるたびに女性への性暴力が繰り返されてきた。日本も例外ではない。先の大戦を巡っては、日本兵のレイプに関する証言があるほか、軍の慰安婦問題は国際世論から性暴力として批判されてきた。終戦後の引き揚げ時には日本の女性が被害に遭った。

 性暴力の目的は、兵士の欲望を満たすことだけではない。銃や爆弾も使わずに、女性はもとより、その家族や社会に深刻なダメージを与える「有効な武器」としても使われてきた。

 ようやく、国際社会がこの問題に本気で向き合い始めたのは、2万人を超える女性が被害に遭ったとされる1990年代のボスニア紛争以降である。

 その後、国際刑事裁判所の設立を定めたローマ規程(98年採択)で「人道に対する犯罪」と定義された。性暴力撲滅の機運は世界に広がりつつある。今回の平和賞は、その潮流を加速させる大きな意義を持つ。

 世界各地の紛争地で残虐な性暴力が続いている。国連を中心に世界が結束し、性暴力を抑止して被害者を救済することはできるはずだ。日本政府がその一翼を担うことを期待したい。

 私たちの多くにとっては、紛争は遠く離れた地域の出来事に思えるのも事実だ。だが、グローバル化が進む中、国際社会との接点を持つ局地紛争は珍しくない。コンゴの紛争の背景には、ハイテク機器に欠かせないレアメタル(希少金属)資源を巡る利権があるとされる。

 心身を傷つけられ、尊厳を踏みにじられた被害者に心を寄せることは、日本で暮らしていてもできることだ。性暴力に対する抗議の声を上げ、政府と国際社会を突き動かしたい。

 ノーベル賞委員会は今回の平和賞は、性被害の告発運動「#MeToo」(「私も」の意)と共通するとも語った。女性の安全や権利が守られない限り、平和な世界は実現できないことを、一人一人が肝に銘じたい。

=2018/10/11付 西日本新聞朝刊=

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