世界津波の日 南海トラフへ備え加速を

 迫り来る最大級の地震の危機を直視し、対策を加速させる契機と捉えたい。

 きょう11月5日は「世界津波の日」である。日本などの提案で2015年12月、国連総会で採択された。幕末の1854年11月5日(旧暦)に起きた、安政南海地震の際の史実に由来する。今の和歌山県広川町で、津波の襲来を予見した男が稲束を燃やして村人に急を知らせ、高台に導き命を守った。

 地震はマグニチュード(M)8級、津波の高さ16メートルとそれぞれ推定され、揺れは九州でも記録された。東海沖から九州沖に延びる南海トラフを震源とする巨大地震の一つとみられる。

 南海トラフ巨大地震は684年の白鳳地震から13回の記録が残る。今後30年以内の発生確率について政府の地震調査委員会は今年、70~80%程度と発表した。時間の経過に伴いそれまでの70%程度から引き上げた。

 7%台だった熊本地震と比べれば、いかに差し迫った数字か分かる。発生すれば地震の規模は最大M9級で死者は最悪の場合33万人に上ると推定される。

 この巨大地震から国民の生命や財産を守る目的で特別措置法ができたのは、16年前のことだ。阪神大震災で地震の脅威を改めて体験したからだ。

 私たちはその後、東日本大震災で目の当たりにした大津波の破壊力も知った。政府は海底の監視体制を拡充するなど対策を急いでいる。23年度までに高知県と九州をつなぐ地震・津波観測システム(海底ケーブル式)を完成させる計画などだ。

 とはいえ、住民の事前避難につながる地震の予知は、現在の知見では困難である。この点をしっかり押さえておく必要がある。防災や減災のためには、日ごろからの十分な備えが必要だ。とりわけ津波の場合は、ともかく高台などへ「逃げる」という意識が最も重要だ。

 東日本大震災では、岩手県釜石市の小中学生約2900人が高台などに逃げて無事だった。「迷わず逃げろ」を合言葉にした日ごろの訓練が生きた。安政南海地震での避難とともに、時代を超えた大きな教訓だろう。

 津波は、わずか高さ1メートルであっても軽く人を押し流し、同2メートルでは木造家屋を全壊させる力を持つとされる。

 南海トラフ巨大地震による津波の高さは高知県黒潮町の34メートルをはじめ、九州では大分県佐伯市や宮崎県串間市で15メートル前後と想定されている。桁違いだ。

 被害が想定される各地で学校の避難訓練のほか、避難先の高台整備が進んでいる。そうした場所やそこに至るルートの確認など備えを心掛け、「命を守る」を最優先に取り組みたい。

=2018/11/05付 西日本新聞朝刊=

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