交通事故死最少 改めて「人優先」の徹底を

 横断歩道の手前で、なぜ車は停止しないのか-。訪日外国人の目に奇異に映る光景の一つという。災害時も秩序を守り、整然と振る舞うとされる日本人像とのギャップが大きいようだ。

 日本自動車連盟(JAF)が昨年実施した現地調査のデータがある。それによると、歩行者が渡ろうとしている信号機のない横断歩道の手前で一時停止した車の割合は、全国平均で8・6%にすぎなかった。

 都道府県別ではトップが長野で58・6%、最下位は栃木の0・9%だった。九州7県は福岡18・4%▽長崎10・0%▽熊本8・8%▽佐賀8・0%▽宮崎7・9%▽鹿児島7・0%▽大分6・7%の順である。

 別の調査では理由について「自分が停止しても対向車が停止せずに危険だから」との回答が4割を超えた。誰も止まらないだろうからという、マイカー普及期に浸透した「車優先」の意識が、今も払拭(ふっしょく)されていないことがうかがえる。道交法には、歩行者を無視して通過すれば懲役3カ月以下などの罰則規定があることを忘れてはならない。

 かつて車社会は交通戦争という言葉を生み、深刻な社会問題となった。本格的な事故対策を展開する交通安全対策基本法が制定されたのは1970年だった。以降、関係法令が次々に改正されていった。

 基本は「人優先」である。横断歩道の整備のほか、交通指導取り締まりの強化に加え、安全教育が徹底された。最近では、住宅地などで車の速度を時速30キロ以内に制限する区域「ゾーン30」の整備も進んでいる。

 交通事故による死者数は昨年は3532人と過去最少を更新し、ピークだった70年の実に5分の1程度となった。ただ犠牲者の2人に1人は65歳以上だ。シルバー世代をどう守っていくかは高齢社会の重要な課題だ。

 例えば、歩行者を守るはずの歩道橋である。元々、階段の上り下りという負担を強いる施設だ。それを苦にしてやむなく車道を横断する高齢者は多い。危険極まりない。一方で、老朽化した順に撤去も進む。横断歩道や歩行者優先地区を、さらに増やしていく必要があろう。

 高齢者を事故から守ると同時に、加害者にさせない努力も必要だ。判断力の低下による運転ミスで事故が続く中、運転免許の自主返納者も増えている。ただ、車なしには買い物や通院ができない地域もある。地域巡回バスの充実など社会的なバックアップが求められる。

 車社会では半ば当然と思われてきた意識の改革が肝要だ。時代に対応した「人優先」の環境づくりを進め、尊い命を守っていかなければならない。

=2019/01/23付 西日本新聞朝刊=

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