介護職の虐待 暴力に走る要因検証を

 お年寄りが「人生の秋」を穏やかに過ごすための施設で、いったい何があったのか。

 介護老人保健施設の元男性職員が相次いで逮捕された。岐阜県の施設では入所者に対する傷害の疑い、奈良県の施設では入所者を殺害したとする殺人容疑である。

 岐阜県の施設では、重傷を負った女性を含め、2017年の夏だけで5人が死傷している。警察は慎重に捜査を進め、真相を解明してほしい。

 高齢者施設で、お年寄りが職員から虐待される痛ましい出来事が後を絶たない。時には死に至ることもある。残念ながら、九州でも続いている。

 17年以降に自治体が明らかにしただけでも、大分県宇佐市のサービス付き高齢者向け住宅や、北九州市の介護老人福祉施設で職員が入所者に暴行などの虐待を加えていた事案がある。18年夏には、熊本市の介護施設で男性職員が入所者の腹部などを殴って死なせたとして、傷害致死容疑で逮捕された。

 厚生労働省の16年度調査では、介護施設などの職員による虐待は452件に上った。10年連続の増加で、過去最多を更新した。相談・通報を受け、自治体が虐待と判断した案件だけで、この数である。氷山の一角と見るべきだろう。

 大多数の優良な施設関係者には信じ難い事態だろうが、業界に広がりつつある深刻な問題と捉え、対策を急ぐ必要がある。過去に何らかの行政指導を受けた施設で、虐待が起きたケースが少なくない。虐待が再発した施設もある。「介護の質」に疑義が生じた施設は、自治体の監督を強化すべきだ。

 厚労省の調査によると、虐待が起きる原因として、「教育・知識・介護技術などに関する問題」が筆頭に挙げられている。一方で、過重な業務負担を主な原因とする民間調査もある。

 介護現場では人手不足が深刻化しており、疲労やストレスをため込んでいる職員は多いだろう。経験の乏しい若手が、いきなり厳しい現場に投入されることもあるという。

 意思疎通を図りづらい認知症高齢者が暴力に遭うケースが目立つ。虐待が露見しにくいためではないか。介護事業者は職員の教育と心身両面のサポートを拡充するとともに、虐待に遭うリスクが高い入所者の見守りに力を入れることが肝要だ。

 いかなる理由であれ、虐待は許されない。介護施設内での暴力を根絶するにはどうすればいいのか。職員が虐待に至ってしまう要因は一つとは限るまい。厚労省は過去の事案を多角的に検証し、実効性の高い防止策の構築を急ぐべきだ。

=2019/02/10付 西日本新聞朝刊=

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