イチロー引退 感動と勇気をありがとう

 日米のプロ野球界で鮮やかな光を放ってきたイチロー外野手が現役引退を表明した。

 野球の歴史に深々とその名を刻んだ選手であることは、言うまでもない。残した記録は圧巻の一言である。

 日本では史上最速で千安打に達し、7年連続で首位打者に輝いた。海を渡って、新人として大リーグに挑んだ2001年に首位打者となると、04年には84年ぶりに年間最多安打記録を更新し、世界を驚かせた。年間200安打は10年連続に及び、3千安打にも到達した。日米の通算安打は、空前絶後の4367本に上る。

 走力を生かした内野安打、フェンス際の好捕、「レーザービーム」と呼ばれた返球など、走攻守にわたって、野球の奥深い魅力を存分に教えてくれる得難い選手でもあった。

 もっとも、人々から「特別な選手」として尊敬され、愛される理由は、華麗なプレーや幾多の記録だけではない。

 「後悔などあろうはずがない」。引退会見では晴れやかな表情でそう語った。自分の限界を超えるために、ひたすら地道に努力を重ねてきた。その自負が言わしめた言葉に違いない。

 常に高いプロ意識を保ち、求道者のように、グラウンド内外で入念な準備に取り組む姿勢は、日米を問わず、若手選手や野球少年の模範となった。

 自分を信じ、その意志を貫く頑固さは、新人時代から際だっていた。球団首脳陣の指導に逆らい、「振り子打法」を確立したのは有名な話だ。

 私たちは無意識に場の空気を読みがちだ。個性的でありたいと思いつつも、集団から突出することを恐れる。日本の社会は、「横並び」を良しとする同調圧力が強いとも指摘される。

 それだけに、周囲の声に左右されず、自分の道をひたむきに歩むイチロー選手の姿は、実に魅力的だ。多くの人々に勇気と励ましを与えたに違いない。

 思えば、イチロー選手が恩師と慕ったオリックス元監督の故仰木彬さんは、独特な「トルネード(竜巻)投法」で大リーグへの道を切り開いた野茂英雄さんを育んだ人物でもある。

 福岡県出身の仰木さんは現役時代、個性派ぞろいで「野武士集団」と呼ばれた西鉄ライオンズの二塁手だった。日本人大リーガーの中でも特筆すべき業績を残した頑固で個性的な2人が、仰木さんの懐から巣立ったのは偶然ではあるまい。

 野茂さんは今、アマチュア野球の振興に取り組んでいる。「野球への愛」に貫かれたイチロー選手の人生は、どんな新たなステージを迎えるのか。楽しみに見守りたい。

=2019/03/23付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]