「刹那(せつな)」は、仏教でいう時間の最小単位…

 「刹那(せつな)」は、仏教でいう時間の最小単位。転じて、極めて短い時間、瞬間を指す。鎌倉時代の禅師道元が著した「正法眼蔵」に〈一弾指のあひだに、六十五の刹那あり〉と

▼パチンと指を1回鳴らす時間が65刹那。ならば、0・02秒は何刹那になるだろう。男子陸上の桐生祥秀選手が100メートルを9秒98で走った。日本人として初めて10秒を切った。思わず指をパチンと鳴らしたくなる快挙だ

▼伊東浩司さんが10秒00を記録したのは1998年。9秒台は目前かと思われたが、それから19年。日本陸上界に立ちはだかった壁は厚かった。その壁を破る1番手として注目されたのが、高校3年で10秒01をたたき出した桐生選手だった

▼だが、大学に進学した桐生選手に険しい道のりが待っていた。「日本人初」の重圧。記録は伸び悩み、故障にも苦しんだ。今季は世界選手権の個人種目代表を逃す屈辱も。「4年間くすぶっていた」。それでも“刹那的”になることなく、悔しさをバネに刹那を飛び越えた努力をたたえたい

▼「世界のスタートラインに立てた」と桐生選手。そう、ここからまた新たな挑戦だ。目標は東京五輪での決勝進出。もちろん、9秒台にあと一歩のライバルたちも指をくわえてはいまい。日本陸上界は一気に9秒台時代に突入する予感も

▼禅師いわく〈道は無窮なり。さとりても猶(なお)行道すべし〉。道は果てしないが、さらなる精進を期待したい。


=2017/09/12付 西日本新聞朝刊=

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