トランプ政権1年 深刻な国際秩序の「漂流」

 米国の大統領にトランプ氏が就任して20日で1年となる。

 国際社会が不安を抱いて見守る中、トランプ大統領はこの1年間、常識を覆す言動で米国社会と世界を振り回してきた。

 「米国第一主義」を掲げ、多国間協調を軽視する異質な大統領によって、国際秩序の漂流が始まっている。急速に不安定化する世界の中で、どのようにして国家の進路を定め、国民の利益を守っていけばいいのか。日本は新たな難題に直面している。

 ●破壊だけで創造なし

 トランプ氏の外交・安全保障分野の仕事ぶりを端的に表現すれば「創造なき破壊」となるだろう。

 オバマ前大統領など歴代政権が築き上げてきた政治的業績を壊すことには熱心だが、その後の構想や長期戦略がないため、代わりの秩序や体制を創造するには至らない。結果として破壊だけが残る。

 典型的なのが地球温暖化対策の枠組みであるパリ協定からの離脱だ。米国が主導してきた環太平洋連携協定(TPP)も「米国に不利益」との理由で離脱に転じた。関係国のこれまでの苦労や信頼関係を一顧だにしない。

 さらにトランプ氏は「エルサレムはイスラエルの首都」と認定し、世界各国から「中東和平の基盤を壊す」と批判を浴びた。国連総会ではこの認定の撤回を求める決議が圧倒的多数で採択され、米国の孤立が浮き彫りになった。

 国際協調に背を向けるトランプ氏は、国際社会での米国の影響力を減退させた。代わりに中国が存在感を増しているのが現状だ。

 ●「指導者像」傷つけた

 トランプ氏が壊したのは協調の枠組みだけではない。世界が米国の大統領に抱く「期待される指導者像」も傷つけている。

 有色人種やイスラム教徒に対する差別的発言、事実をねじ曲げる反知性的態度、自分と意見を異にする人々への執拗(しつよう)な攻撃‐。こうした言動を繰り返すトランプ氏は、米国の歴代大統領が守ってきた良識の規範を破っている。

 移民政策を巡り、アフリカやカリブ海の国について「くそったれ国家」と発言したとも報じられた。「民主主義と人権の擁護者」として頼りにされてきた米国は、今やトランプ氏の下で「尊敬されない国」に変化しつつある。

 トランプ氏に呼応するように、欧州などで排外主義を唱える大衆扇動型の右派政党が勢いを増しているのも気掛かりだ。世界各地でむき出しの「自国民第一主義」が大手を振り始めている。

 米国は今年11月、トランプ政権に対する最初の審判となる中間選挙を迎える。ロシア疑惑で窮地に立つトランプ氏が、支持層の保守強硬派にアピールするため、選挙前に外交や安全保障分野で攻撃的かつ自国中心的な政策に踏み切る可能性もある。そうなれば、世界はさらなる混乱に陥るだろう。

 ●「べったり」のリスク

 安倍晋三首相はこの1年、トランプ氏の懐に飛び込むことで米国の政策転換に伴う日本への悪影響を最小限にしようと図った。いわば「抱き付き戦術」である。北朝鮮の核・ミサイル開発阻止のためには日米連携が不可欠だからだ。

 しかし、短絡的で予測困難な米国と一体化していくことには大きな危険が伴う。例えばトランプ氏が衝動的に北朝鮮への軍事攻撃を決断したとき、首相は「ノー」と言えるのか。本格的な米朝間の軍事衝突に発展した場合、北朝鮮の反撃で大きな損害を受けるのは日本なのだ。親密さゆえに「どうせ日本は言うことを聞く」などと思われるようでは危う過ぎる。

 独善的に振る舞う米国に日本が寄り添い続けることで、日本の国際的信用まで低下する恐れも捨てきれない。「米国べったり」のリスクが顕在化している。

 むしろ日本は、欧州主要国やカナダ、オーストラリアなどと連携を強め、民主主義、人権尊重、自由貿易といった普遍的価値観に基づく国際秩序の再建に取り組むべきである。そのためには、足場となるアジアで中国や韓国との関係を安定させるのも急務だ。

 トランプ大統領によって変質した米国に無批判に追従する必要はない。「国際秩序の守り手」の一員として自立した外交を展開したい。国際協調主義の恩恵を最も受けるのは日本であるからだ。


=2018/01/20付 西日本新聞朝刊=

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