明治維新の3年前で、まだ禁教令下にあった1865年…

 明治維新の3年前で、まだ禁教令下にあった1865年。辺りをはばかるように十数人の男女が大浦天主堂(長崎市)へ現れる。1人の女性が神父に明かした。「わたしのむね、あなたとおなじ」「サンタ・マリア様の像はどこ?」

▼日本で約250年も禁じられたキリスト教。絶無と思われた信者が長崎の地にいた。「信徒発見」のニュースは驚きと感動を伴って欧米を駆け巡ったという

▼厳しい監視の目をくぐり、独自の信仰形態を何世代も引き継いだ潜伏キリシタン。長崎や天草(熊本県)の関連教会などが今夏にも世界遺産登録の見込みとなった。経済効果を当て込む声にはやや違和感もあるが、庶民の厳かな営みが世界でも評価されたことを喜びたい

▼江戸時代に迫害されたのは、キリシタンだけではない。薩摩藩と隣の人吉藩では浄土真宗を禁じた。全国諸藩でも例がない。こちらも徹底した探索が行われ、発見されると死罪、あるいは拷問で転宗を迫られた

▼それでも門徒たちは他国から変装させた僧を迎えて説教を聞き、夜陰に山を越え他藩の寺に集まって法要をした。くりぬいた柱や洞の中に本尊を隠し、礼拝などをしたという。「隠れ念仏」と呼ばれる

▼作家の五木寛之さんは書く。「日本人のこころの歴史の〈記憶〉として、大切に残していかなければいけない」(「隠れ念仏と隠し念仏」)。光を当てるべき九州の民衆史がここにもある。

=2018/05/14付 西日本新聞朝刊=

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