「バナナ紙幣」…

 「バナナ紙幣」。1942年、英領シンガポールを占領した日本軍が現地の通貨に替えて発行した軍票のことだ。バナナの図柄だったのでその名が付いた

▼敗戦で日本軍が撤退すると軍票は紙切れ同然に。ただで手に入るバナナの葉と重ね、「バナナ紙幣」と言えば価値もないものを指すようになったそうだ

▼日本占領時代には「昭南島」と呼ばれたシンガポールで、初の米朝首脳会談が行われた。両首脳は「朝鮮半島の完全非核化」を約束する共同声明に署名。朝鮮戦争の終結を見据えて米朝関係の改善にも意欲を示した

▼日韓併合から太平洋戦争、朝鮮戦争、南北分断…。歴史に翻弄(ほんろう)された朝鮮半島にとって、今回の会談は新たな時代への転換点となるかもしれない。北朝鮮が融和姿勢に転じたことは、東アジアの平和と安定にとっても大きな意味がある

▼ただし、米国や日本が求める「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」にまでは踏み込めず、核放棄の具体的な手順や検証方法は示されなかった。北朝鮮は核を巡る約束を何度も反故(ほご)にしてきた。トランプ米大統領は貿易や温暖化対策の国際協定から一方的に脱退するなど“ちゃぶ台返し”が得意技だ。両首脳の約束は本当に履行されるか、との不安は残る

▼今は非核化への扉が開いたにすぎない。困難な交渉はこれからだ。歴史的な合意を「バナナ紙幣」にせぬよう国際社会の強い後押しが欠かせない。

=2018/06/13付 西日本新聞朝刊=

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