〈警報燈(とう)魔の眼(め)にも似て野分かな〉…

〈警報燈(とう)魔の眼(め)にも似て野分かな〉。福岡県出身の俳人竹下しづの女の作品だ。台風の襲来を告げる警報灯の光が、災厄をもたらす恐ろしい魔の目に思えた

▼しづの女は雑誌「ホトトギス」などで活躍し、杉田久女らと共に大正期の女流俳壇を主導した。農家に生まれた彼女にとって、自然の恵みと脅威は身近だったろう。〈瀧見人(たきみびと)水魔狂ひ墜(お)つ影見しか〉。激しく流れ落ちる滝に「水魔」という人知を超える力を感じた

▼前例のない規模の水魔が西日本各地で牙をむいた。魔の襲来を告げる「大雨特別警報」は11府県で。滝のような豪雨、河川からあふれた濁流が家も車も人も押し流す。崩れ落ちた山は土石流となって…

▼人知を超える災厄に100人以上が犠牲になり、今なお多くの人の安否が不明だ。孤立して助けを待つ人もいよう。まずは人命を最優先したい

▼避難者は2万人以上。命を永らえた人々にも、これから長い苦難が続く。親しい人を失った悲痛。過酷な真夏の避難所生活。住居や仕事など「日常」の再建は気が遠くなる

▼〈短夜(みじかよ)や乳(ち)ぜり泣く児(こ)を須可捨焉乎(すてつちまをか)〉はしづの女の代表作。寝苦しい夏の夜、むずかる乳飲み子は捨ててしまおうか-いや、そんなことはできはしない。自然災害が絶えなくても、この国や故郷や暮らしは捨てられない。ならば、いかに魔に警鐘を鳴らし、危険を小さくするか。もっと知恵を絞り助け合っていくしかない。

=2018/07/10付 西日本新聞朝刊=

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