日暮れ時になると決まって1~2時間、連絡が取れなくなる記者が部下にいた…

 日暮れ時になると決まって1~2時間、連絡が取れなくなる記者が部下にいた。Y君と呼ぶ。普段はたちどころに電話に出て、つたない質問にも手際よく答えてくれるのが、なぜ?

▼数カ月後に理由が分かった。取材相手と一対一で接触し「特ダネ」を取るため、彼らが帰宅する時間帯を探っていたのだ。見上げた心掛けだが、取材にのめり込むY君に何度か声を掛けた。「頑張り過ぎるな。原稿より健康」と

▼そんなY君が、過労で亡くなったNHKの佐戸未和記者=当時(31)=と、ある県警本部の記者室で、机を並べていたと最近知った。Y君は言う。「佐戸さんは笑顔で取材相手の懐に飛び込む、手ごわいライバルでした」。月159時間の残業の末、命を落とした。ご両親は「娘はかけがえのない宝だった。この苦しみを背負う人が二度と現れないことを切に願う」と語った

▼6月に働き方改革関連法が成立し、7月の閣議で過労死防止対策大綱が改定された。佐戸さんのご両親の悲しみを無にしないため、頑張り屋のY君と、Y君に似た大勢の人々に、吉野弘さんの「奈々子に」を贈る。誕生した長女に宛てた詩である

▼〈ひとが/ほかからの期待に応えようとして/どんなに/自分を駄目にしてしまうか〉〈お父さんが/お前にあげたいものは/健康と/自分を愛する心だ〉

▼全ての人よ、たまには自分を甘やかそう。かくいう筆者は実践済みだが。

=2018/08/12付 西日本新聞朝刊=

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