歴史小説家の醍醐味(だいごみ)は、この「漢(おとこ)」はと見込んだ歴史上の人物に…

 歴史小説家の醍醐味(だいごみ)は、この「漢(おとこ)」はと見込んだ歴史上の人物に、自らの信念や価値観を思う存分語らせることにあるのでは。昨年12月に亡くなった葉室麟さんの小説「大獄 西郷青嵐(せいらん)賦」を読んで、そう思った

▼葉室さんが見込んだのは、大河ドラマ「西郷(せご)どん」でおなじみの西郷隆盛。若き昇り竜のような西郷に、武骨な薩摩弁で胸が熱くなるせりふを自在に語らせる

▼「涙も出らん男が強うなってどがいする。ひとが強うなっとは、ひとに優しくするためごわんど」「たとえ、命を失うことになっても、暗い世を照らす燈明(とうみょう)になるのはよかことじゃとおいは思う」「力で抑えつけられて本当に動く者はおらんとじゃ。ひとを動かすのは心だけじゃ」

▼この作品を雑誌で連載していた頃の葉室さんに、「無双の花」の舞台になった福岡県柳川市で取材した。「明治維新の全てを語れるのは西郷だけ」と、ライフワークにしていく意気込みを語ってくれた

▼1作目は遠島になった西郷が薩摩へ戻る場面で終わる。大政奉還も明治維新も西南戦争も、全てはこれからだった。続いていれば、葉室さんが敬愛した司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」に匹敵する人気シリーズになったかもしれない

▼真の「漢」を描いた作家の早過ぎる死から10カ月。もう予約は締め切られたが、葉室さんをしのぶ会が8日、福岡市内である。ファンの尽きぬ哀悼の声が聞こえてきそうだ。

=2018/10/07付 西日本新聞朝刊=

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