「駅のために使ってください」男性が置いていった10万円…その理由に駅員は感激

 「昔ここで大変お世話になりました。駅のために使ってください」。滋賀県の米原駅に70歳すぎの男性が訪れ、10万円を置いていった。事情を聴いて駅員らは感激した

▼40年前の出来事だが、当時この話を随筆で取り上げ、世に広く伝えた作家がいる。故池波正太郎さん(1923~90)。「昔の日本人の姿がくっきりと浮き上がってくる」と

▼話の始まりは大正末期ごろ。無賃乗車で上京しようとした13歳の少年が米原駅で降ろされた。両親がおらず、姉を頼って働こうとしていた。駅長らはあえて見逃した。所持金を出し合って少年に渡し、車掌室に乗せて東京に送った。以来、少年はまじめに働き、駅での恩も忘れずにいた。その彼が冒頭の男性だった

▼池波さんも13歳で奉公に出て作家になるまでの間、大人たちの思いやりに支えられたという。だからこそ感銘しつつ、そうした世の中の余裕が失われてしまった、と嘆いてもいる

▼昨年の自殺者数が発表された。速報値で2万598人。9年連続で減少した。ただし、未成年者の自殺(昨年1~11月で543人)は横ばい傾向のまま

▼いじめ、虐待、貧困…と、さまざまな要因が指摘されるが、時代小説の達人だった池波さんの観察眼は現代にも通じよう。何かにつけて世知辛い世の中。大人たちが豊かな心を持ち、若い命としっかり向き合っているか。きのうは池波さんの誕生日(生誕96周年)だった。

=2019/01/26付 西日本新聞朝刊=

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