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【観光VRのススメ】 関根 千佳さん

関根 千佳(せきね・ちか)さん=ユーディット会長、放送大学客員教授
関根 千佳(せきね・ちか)さん=ユーディット会長、放送大学客員教授
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◆土地の記憶を生かそう

 九州には、好きな場所がたくさんある。朝もやの湯布院。高千穂の夜神楽。広大な草千里。風わたる虹の松原。五島の教会。長崎・鳴滝の紫陽花。かのやばら園。天国への階段のような霧島の山々。そしてふるさと佐世保の、九十九島を染める夕焼けは、世界に誇れる美しさだ。

 それらを、季節や時間、ときには時代さえ超えて、もう一度旅したいと思う。その土地へ行き、その場所に立ち、風や光や、たくさんのものを五感で感じながら「その土地の記憶」をたどりたいのだ。

 先日、太宰府へ行った。都府楼跡には、奈良の昔に戻った気持ちになれるアプリがある。VR(バーチャルリアリティー)というものだが、指定された場所でスマホをかざせば、当時の建物や景色が見える。遠くには、大宰府の壮大な街並みが見えてくる。

 この時代、九州が文明のクロスロードであり、大宰府が都に並ぶ「遠の朝廷(みかど)」であったことがわかるのだ。万葉人になった気分で、時間と空間の中を旅することができる。

 アプリの中に居る人物は、私の母が作った人形である。九州国立博物館に当時を偲(しの)ぶために飾ってあるのだが、開館当時の学芸員による徹底した時代考証がなされたものだ。雅(みやび)な人々を見ていると、菅原道真公だって、九州に来ることができて良かった!と本当は思っていたのかも、と想像したくなる。食べ物が美味(おい)しく、気候温暖で、文明の窓口に近く、いい温泉もたくさんあるのだから。

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 このVRは、海外からのお客様にも人気だという。その土地を、時空を超えて旅するというのは、楽しいし多くのことが学べる。ポケモンGO(ゴー)は賛否両論あったが、歩く旅を提唱したことで地域活性化や健康増進につながった。今後は、現地へ行って楽しむことが前提の、着地型観光で使える観光VRが盛んになるだろう。

 2004年に、私は「スローなユビキタスライフ」という小説を書き、この状況に近い未来図を予測した。観光客が、家族や自分の子ども時代や、寛永年間などの好きな時代に、自分の端末を合わせ、その頃の映像を現実に重ねながら、今の街歩きを楽しむのだ。

 まだスマホもVRも普及していなかったころから、こんな旅ができたらいいなあと夢見ていたのである。NHKのブラタモリという番組には、毎回、過去に遡(さかのぼ)るCGが映るが、あのCGを現実に重ねて、その場所を実際に歩くというイメージに近いだろう。

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 この仕組みを実現するためには、その土地に住む人々が主役になる。遠い歴史は考古学者に任せるとしても、自分の生きてきた時代は遺(のこ)せる。それぞれが家の古文書や写真を持ち寄るのだ。

 それらをまとめ、アナログのものはデジタル化し、情報データベースにしていく仕事は、地域の若者の起業につながるはずだ。人々が持ち寄った写真や記録に対し、時間や場所といった記憶のタグをつける仕事は、高齢者の出番かもしれない。そこにどんな自然が、どんな歴史が、どんな暮らしがあったのか、記憶を張り付けていく。

 こうやってデジタルアーカイブとして登録されたデータの集積が、いつかその時代の、その土地の、深く広い記憶となるだろう。東北の被災地では、シニアと子どもが地域の記憶のためにこれを行っていた。災害や開発で変わりゆく土地に、思いを寄せる作業でもある。

 もう一度その場所に立ち、その風光の中で、私も、自分がまだ若く美しかった(!)ころに戻ってみたい。それもバーチャルな夢ではあるが。

 【略歴】1957年長崎県佐世保市生まれ。九州大法学部卒。81年、日本IBMに入社後、ユニバーサルデザインの重要性を感じ、98年に(株)ユーディットを設立。同社社長、同志社大教授などを歴任。著書に「スローなユビキタスライフ」など。


=2017/06/18付 西日本新聞朝刊=

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