【緊迫する朝鮮半島情勢】 姜 尚中さん

姜 尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長
姜 尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長
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◆「永世中立化」の道探れ

 北朝鮮情勢は、一触即発の危機を抱えながらも、小康状態を保ちつつある。とはいえ、米韓連合軍司令部が朝鮮半島有事を想定した定例の合同指揮所演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」(UFG)を行う8月いっぱいから、9月9日の北朝鮮の建国記念日に至るまでは、気の抜けない状態が続きそうだ。

 一方で、UFG視察のためソウルに集結した米軍の最高首脳たちは異例の共同記者会見を開き、「(北朝鮮危機の解決のための)主なエンジンは外交であり、軍事的措置は外交が成果を出すために支援することが目的」と述べ、軍事力は外交を支援する資源であることを明らかにした。

 この制服組首脳の発言は、軍事力の行使も含めたあらゆる選択肢がテーブルにあるとはいえ、米軍事当局者が外交による決着を目指していることを示唆している。

 もちろん、そうした外交優位の米国側の対応で、北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射、実戦配備を断念するとは思われない。とすれば、今後もだらだらと出口の見えないトンネルの中を、恐怖や不安を抱えてくぐり抜けていくことになるのだろうか。

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 一部の世論や専門家の中には、「斬首作戦」の決行やレジームチェンジを伴う限定戦争の戦略的な可能性を期待する向きもあるが、それこそ、「平和ボケ」の誹(そし)りを免れないはずだ。

 北朝鮮の建国以来の歴史やその体制、さらに現在の核やミサイルなど、大量破壊兵器の質量にわたる飛躍的な向上を考えれば、ソウルだけでなく、東京も多大の犠牲を免れないかもしれないのである。

 ではどうしたらいいのか。刻々と変化する事態の推移もさることながら、こうした長引く危機の中だからこそ、解決への骨太の道筋とビジョンを想定しておく必要があるのではないか。

 あえて私見を言えば、朝鮮半島の「永世中立化」構想が、その手掛かりになるかもしれない。

 確かに明治以降、さまざまな意匠を凝らした中立化構想が浮上しては、歴史の波濤(はとう)の中に消えていった。しかし、日米中ロの周辺四大国がひしめき合う朝鮮半島の地政学的な条件を考えれば、永世中立化構想は、単なる画餅に終わる幻想ではないのではないか。

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 もっとも、一部には、朝鮮半島の永世中立化とは即(すなわ)ち、中国の勢力圏の中に南北が併呑(へいどん)されていくことを意味しているという穿(うが)った見方があることも事実だ。そうした見方の背景にあるのは、韓国は日米の支援なしには存続しえないという、戦前以来の事大主義的な他律性史観である。

 アジアで4番目の経済規模の国家であり、G20の一角を占める韓国が、日米の完全な衛星国家にとどまるということはありえないはずである。むしろ朝鮮半島非核化宣言の趣旨を生かし、休戦協定を平和協定に変え、暫定的な在韓米軍の残留と将来の撤退、北朝鮮の完全な非核化と中立維持に必要な常設的武装力の維持と、周辺大国に対する非同盟中立政策を堅持できれば、朝鮮半島は紛争から平和の回廊になりうるのではないか。

 そのためには、南北の完全統一を目指すのではなく、国家連合から連邦国家の段階を経て、統一へと緩やかに進んでいくことが望ましい。

 北朝鮮の異様な独裁体制も、内部の民主的な勢力の成長を通じて変化を余儀なくされるはずだ。それが、東ドイツ型の道を歩むのか、それともルーマニア型となるのかは、南北の国家連合を前提とする相互交流の成果にかかっている。

 こうした構想は「痴人の夢」と一掃されるだろうか。

 【略歴】1950年、熊本市生まれ。早稲田大大学院博士課程修了後、ドイツ留学。国際基督教大准教授、東大大学院情報学環教授、聖学院大学長などを歴任。専攻は政治学、政治思想史。著書に「漱石のことば」など。


=2017/08/27付 西日本新聞朝刊=

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