【衆院選後の北朝鮮対策】 姜 尚中さん

姜 尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長
姜 尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長
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◆「国難」にどう向き合う

 「国難突破解散」を掲げた衆院選は、予測通り与党の圧倒的勝利に終わった。だが、短い選挙戦とはいえ、国難であるはずの北朝鮮問題とどう向き合うか、具体的な施策や戦略は、安倍晋三首相の口から語られることはなかった。

 今後、安倍政権は、トランプ米大統領の訪日を、拉致問題の解決に向けた絶
好の舞台として演出するはずであり、それは北朝鮮問題という国難を国民にアピールする機会となるに違いない。確かに大統領との個人的な信頼が、拉致問題解決の前進につながり、国難突破の梃子(てこ)になるのであれば、大いに歓迎すべきだ。

 しかし、思いつくままをツイッターで発信し、「完全破壊」という軍事的オプションをちらつかせるなど、北朝鮮への「口撃(こうげき)」を繰り返す大統領を全面的に支持するだけでいいのか、心配は尽きない。

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 安倍政権の対北朝鮮政策と言えば、一にも二にも圧力であり、米大統領を全面的に支持するということ以外、ほとんど日本独自の外交も戦略もないような印象を受ける。

 米国内に目を転じれば、最近では米共和党重鎮で上院外交委員会のボブ・コーカー委員長が、北朝鮮問題で大統領は米国を「第3次世界大戦への道」に巻き込みかねないと警告しているし、コーカー議員以外でも共和党の有力議員から大統領の危険な言動に対する批判が相次いでいる。

 しかも、政権内の要とも言える国務長官のティラーソン氏が、大統領を「馬鹿(ばか)」(moron)と呼んだ、呼ばないの揣摩(しま)臆測が徘徊(はいかい)し、両者の不和が取り沙汰されている。政権のナンバー1とナンバー2が、軍事的な強行策と外交的な交渉策とを巡って鋭く対立しているのである。

 こうした政権内や与党との亀裂や不協和音は、米国の歴史でもなかったことではないか。政治的に素人で地政学的な深慮遠謀に乏しく、商取引のスタイルで国際政治を采配しようとするトランプ大統領の独断専行は、イランの核開発を巡る6カ国協議の協定すら反故(ほご)にしかねない勢いだ。

 そうした短慮により、北朝鮮を巡る東アジアの不安定化に、中東情勢の悪化も加わり、米国の国際的な信任が揺らぎかねない事態が続いている。

 特定の移民や難民への露骨な差別政策やパリ協定からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の一方的見直しなど、トランプ政権は「自己チュー」の「アメリカ・ファースト」をゴリ押ししてきた。

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 こうしたトランプ政権に対して、安倍政権は両首脳の個人的な親密さを強調し、それを外交的な資源として国民世論にアピールしているが、安倍首相との水入らずの個別会談後、間髪を入れずにトランプ政権が環太平洋連携協定(TPP)からの一方的な離脱を宣言したことから分かるように、「アメリカ・ファースト」のためには、首相の助言など歯牙にもかけないことはわかりきったことである。

 北朝鮮ウオッチングで定評のある米国のジョンズ・ホプキンズ大のサイト「38ノース」のシミュレーションによれば北朝鮮との全面衝突となった場合、ソウルと東京で最大200万人以上の死者が出るという予測も出されている。

 北朝鮮問題解決のリアルは、北朝鮮が事実として核保有国になっており、核放棄を交渉の入り口ではなく、出口にせざるを得ないということだ。日米韓を中心に中ロを巻き込み、EUとも協力しつつ、北朝鮮との交渉に当たり、核管理と核拡散防止の確約を取り付ける必要がある。同時に交渉である以上、北朝鮮に「ニンジン」を与えていかざるを得ない。長く、忍耐強い交渉が必要だが、冷戦の時代の封じ込め政策を考えれば、決して不可能ではないはずだ。

【略歴】1950年、熊本市生まれ。早稲田大大学院博士課程修了後、ドイツ留学。国際基督教大准教授、東大大学院情報学環教授、聖学院大学長などを歴任。専攻は政治学、政治思想史。著書に「漱石のことば」など。


=2017/11/05付 西日本新聞朝刊=

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