【自己改革の難しさ】 宮本 雄二さん

宮本 雄二(みやもと・ゆうじ)さん=宮本アジア研究所代表、元中国大使
宮本 雄二(みやもと・ゆうじ)さん=宮本アジア研究所代表、元中国大使
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◆「成功」が目を曇らせる

 先の中国共産党党大会において、習近平国家主席は2050年頃までに、中国をあらゆる分野で世界の先頭に立つ国にするという「中国の夢」を語った。

 「中国の夢」とは、宋や明のような、経済も軍事も文化も世界のトップに立つ国にしたいということのようだ。孫文に始まる近代中国の指導者たちも、皆そう考えてきた。

 だが軍事力をさらに強化していけば、米国と必ず対立する。米国との共通利益を増やして対立関係を緩和させようというのが「新型国際関係」の根っこにある考えのようだが、人類の歴史において経済関係が戦争を止めることにまだ成功してはいない。

 肝心の中国経済も、改革をあらゆる面でさらに深化させないと持続的成長は難しく、中国の発展の土台が崩れる。

 経済の持続的な成長のためには外国との協力が不可欠なのだが、最近、中国社会において外に学ぶ気持ちが急速にしぼんできているように見受けられる。中国国内の風潮がそれを助長している。

 共産党がすべてを指導する「中国モデル」が最も優れており、おかげで世界大国になったし、経済の分野でもたくさんの世界一をつくり出したと喧伝(けんでん)されている。そうなると国民がもう外国から学ぶものはないという気持ちになってもしかたがない。最近、中国に長く住む日本の方から、中国人がますます外国に関心を払わなくなっているという話を聞いた。

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 国を開いて外国から学び、国内を改革する。これが、中国の改革開放政策の精髄だが、そのためには外国には学ぶべきものがあるという意識が不可欠になる。学ぶべきものがないとなれば、中国にいる外国企業を大事にする必要もなく、外資を導入する必要もない。自分だけで改革を進めれば良いということになる。

 しかし、それは間違っている。グローバル経済が絶えず進展する中で孤立すれば負ける。だから従来通りの改革開放政策をさらに大胆に進めるというのが今回の党大会で決まった方針だ。日中政治関係の改善を追い風に日本の経済代表団も大事にされ始めた。

 このように中国指導部は外国との関係を大事にしようとしているのに、中国社会は外国に無関心になってきている。つまり中国経済が達成した、とてつもない成功が、その成功の鍵であった外から学び自己改革を進めるという気持ちをむしばんでいるのだ。世界一だから自信を持てと自分を激励することと、謙虚に他者から学ぶこととはなかなか両立しないようだ。

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 このことは日本にも当てはまるのではないだろうか。10年に中国から戻り、日本のテレビで日本を褒めたたえる番組の多さに驚いた。外国人に「日本は素晴らしい」を連発させている。もちろん日本は良いところをたくさん持つ立派な国だと思う。だが自分がそう思えば良いのであり、無理に外国人に褒めさせて納得する必要もない。最近、衝撃をもって受け止められている製造業大手による不祥事の頻発も、日本は世界一だというおごりが、心のどこかにあったのではないだろうか。

 おごりは、謙虚さと自分を変える気持ちを萎(な)えさせる。だが日本の強みは匠(たくみ)の精神であり技にある。やはり世界一の製造業を持たないと日本の明日はない。これを契機として初心に立ち返り、製造業が再起することを願う。

 明治以来、絶えず自己改革に励み、前進を続けてきた日本が、急にその能力を失うことはない。危機を敏感に感じ取り、世界から優れたところを学び、それに改善を加え、さらに良いものをつくる。これが日本なのだ。その日本に戻ろうではないか。

 【略歴】1946年、福岡県太宰府市生まれ。修猷館高-京都大法学部卒業。69年に外務省入省。中国課長、アトランタ総領事、ミャンマー大使、沖縄担当大使などを歴任。2006年から10年まで中国大使。著書に「強硬外交を反省する中国」など。


=2017/12/24付 西日本新聞朝刊=

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