【北朝鮮情勢、激変の予兆】 姜 尚中さん

姜 尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長
姜 尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長
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◆今こそ日韓関係修復を

 元旦早々、北朝鮮の最高指導者による新年の辞は、世界に衝撃を与えた。国家核戦力の完成を宣言し、核のボタンは机の上にあると米国を挑発するとともに、他方で韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪への参加を明言したのである。

 韓国の文在寅(ムンジェイン)政権の対応は素早く、南北間のホットラインが再開されるとともに、9日には、閣僚級の代表者を交えた南北高位級会談が開催され、北朝鮮の五輪正式参加と政府高官や応援団の派遣について合意をみ、さらに「軍事会談」開催でも一致した。

 すでに韓国は、トランプ米政権と、五輪の開催日程を睨(にら)み、北朝鮮が強くその中止を求めている米韓合同演習の暫定的な延期を決定している。他方、金正恩(キムジョンウン)氏の新年のメッセージを、日米韓3カ国の連携に楔(くさび)を打ち込む巧妙な離間策と見ている安倍政権は、韓国が北朝鮮への融和政策に走らないようクギを刺した。

 ただ、肝心の米国の反応は両義的で、曖昧だ。米政権内からは南北会談の行方に懐疑的な声が聞こえる一方、トランプ大統領自らは、南北会談が「五輪以上のものになるよう期待する」と述べるとともに、「適切な時期に米国も参加するだろう」とより踏み込んだ姿勢を明らかにしている。

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 果たして、日米の間は一ミリも隙間がないほど圧力と制裁一辺倒の強硬策で一致しているのかどうか。もし、北朝鮮の参加で平昌五輪が予想以上に盛り上がり、一時的にでも緊張が解けるとともに、戦争よりは外交による平和的な解決への国際世論の後押しが強まった場合、米政府はどう出るだろうか。

 限定的な先制攻撃であっても、米朝間の全面的な核戦争へとエスカレートしかねないとすれば、米国は単独で武力行使に打って出ることができるだろうか。圧力が必要であるにしても、それだけでは解決の糸口を掴(つか)むことはできないはずであり、それでも圧力と制裁を押し通すとすれば、戦争を覚悟せざるをえない。

 戦争をする以上、北朝鮮の体制崩壊や戦後処理、核による汚染や難民の四散、戦後復興や中国、ロシアなど周辺大国との関係改善、さらに北東アジアの地域的平和秩序の構築など、これらの問題に耐えうる中長期的なグランドデザインがなければならない。国際政治をディール(取引)で割り切るトランプ大統領にそれを望むことはできないし、しかも「ロシア疑惑」でそれどころではないに違いない。それでは日本にそれがあるのか。米国が頼りの安倍政権に、そのようなグランドデザインを描けるとは思えない。

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 とすれば、どうしたらいいのか。北朝鮮による時間稼ぎという懸念が付きまとうにしても、韓国を窓口に北朝鮮のホンネを探り、同時に非核化に向かうインセンティブ(誘引)を与えていくしかない。一方で圧力を加えつつ、他方で交流の窓口を残しておく。この硬軟交えた外交的な狡智(こうち)が必要とされているのである。

 何でもありのトランプ政権である。強硬姿勢から一変、北朝鮮との直接対話へ舵(かじ)を切ることもありえないわけではない。安倍政権には、それをも見越して、圧力とともに北朝鮮への窓口を確保しておく二枚腰の強(したた)かで、柔軟な外交が必要とされている。その意味でも、日韓関係の擦り合わせが緊要(きんよう)だ。従軍慰安婦に関する日韓合意をめぐって日韓の間にささくれ立った空気が漂っているが、合意の破棄や再交渉といった最悪の事態は避けられそうであり、日韓は首の皮一枚、何とかつながっている状態だ。

 朝鮮半島をめぐる激変に備えるためにも、また国民的な宿願である拉致問題の解決のためにも、日韓関係の修復が今こそ必要である。

 【略歴】1950年、熊本市生まれ。早稲田大大学院博士課程修了後、ドイツ留学。国際基督教大准教授、東大大学院情報学環教授、聖学院大学長などを歴任。専攻は政治学、政治思想史。著書に「漱石のことば」など。


=2018/01/14付 西日本新聞朝刊=

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