【ウェブサイトをアクセシブルに】 関根 千佳さん

関根 千佳(せきね・ちか)さん=ユーディット会長、同志社大客員教授
関根 千佳(せきね・ちか)さん=ユーディット会長、同志社大客員教授
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◆「世界基準」を満たそう

 今や企業や組織がごくフツーに持っているウェブサイト。SNS(つながりを支援するネットサービス)との連動も当たり前で、情報発信のツールとして、なくてはならぬものだ。検索して見つからない企業は存在しないとみなされるほど。そんなウェブサイトに厳しい世界基準があるのをご存じだろうか? あなたの会社、組織、学校のサイトは基準を満たしていますか?

 まもなく冬のオリンピック・パラリンピック(以下オリパラ)だ。私は1998年の長野を思い出す。当時、日本IBMで公式サイトのユニバーサルデザインを担当したからだ。国際オリンピック委員会(IOC)の本部がフランスにあったため、サイトは日・英・仏3カ国語で即時更新する必要があった。このとき視覚障害者から依頼が入る。「私たちも読めるよう、アクセシブルにしてください」

 それはもっともだ。90年にADA(障害のあるアメリカ人法)が制定されて以降、障害者や高齢者が情報に容易にアクセスできなくてはならないという考え方は、世界に広まりつつあった。ただ、視覚障害者専用のテキスト版は、お断りした。3カ国語それぞれのテキスト版を作れば、六つのサイトを同時更新しなくてはならない。本体のサイトをきちんとアクセシブルにするからテキスト版は作らない!と宣言した。

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 結果は好評だった。当時あまり知られていなかった「ウェブアクセシビリティ」(年齢的・身体的条件にかかわらず、ウェブで提供される情報にアクセスし利用できること)の基本を正確に守ったため、視覚障害者のみならず誰もが読みやすい、ユニバーサルデザインのサイトになったのだ。長野の1年後に初の国際標準ができ、音声読み上げ、色覚障害への配慮、動画の字幕化などが定められてきた。

 あれから20年。米国では99年、公共調達に関するリハビリテーション法508条の改正で、アクセシブルでないサイトは担当者が提訴されるようになった。欧州では2016年のEU指令で、各国は18年中にウェブやモバイルアプリのアクセシビリティを守る法整備を要求されている。

 欧米各国では元来、情報へのアクセスは人権の一部という考え方が浸透し、厳しい法律のある国も多かった。イタリアではアクセシブルでない公的サイトには、民事罰だけでなく刑事罰まで課されていた! フランスでは新たなEU指令を受け、一定規模の企業サイトも義務化される。改善命令に従わなければ5千ユーロの罰金が課される。

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 公的インフラとなったサイトに、高齢者や障害者がアクセスできることは、駅や店舗にベビーカーや車いすが入れるのと同じことなのだ。米国の某スーパーのサイトは、ADAに違反したとして提訴され多大な和解金を支払った。人権侵害なのだから当然だ。

 しかし日本にはウェブアクセシビリティに関する法律はない。日本工業規格に高齢者・障害者等配慮設計指針「JIS X8341-3」があるだけだ。内閣府は、自治体にこれを順守するよう指示しているが、企業はその必要性をほとんど知らない。グローバル企業でさえ、配慮のない英語版サイトを出し、世界から良識を疑われている。

 後日談だが、長野の2年後、シドニーオリパラでは、このアクセシビリティが万全でないと訴えられ、開催までに必死で手直しした。長野の遺産が継承されなかったのだ。さて今年の平昌は? 何より20年の東京は? 長野よりダメだったと言われたくないよね? 多くのお客様を迎える日本の自治体や企業のサイトは、世界の常識を学び、準備を進めてほしいものである。

 【略歴】 1957年、長崎県佐世保市生まれ。九州大法学部卒。81年、日本IBMに入社。ユニバーサルデザインの重要性を感じ、98年に(株)ユーディット設立。同社社長、同志社大教授など歴任。著書に「ユニバーサルデザインのちから」など。


=2018/01/21付 西日本新聞朝刊=

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