【小規模企業で働く人の健康】 丸山 泉さん

丸山 泉(まるやま・いずみ)さん=医師、日本プライマリ・ケア連合学会理事長
丸山 泉(まるやま・いずみ)さん=医師、日本プライマリ・ケア連合学会理事長
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◆産業医を全ての職場に

 医師の仕事を、疾病の診断と治療のみで語ると、それは全体像ではない。

 自殺対策白書(2017年)によると、国内の自殺者数は7年連続で減少している。とはいえ統計対象国で6番目の多さであり、さらなる総合的な政策が必要であるが、健康政策に関するわが国のプロジェクトには効果を上げたものが多い。自殺対策基本法が06年に施行されて以来、景気の影響があることを考えても、公民一体での取り組みが功を奏してきた。「いのちの電話」事業もその一つである。

 健康政策の範囲は広く、医師の仕事の範囲も広い。産業保健の分野もその一つだ。日本の事業所数は約550万だが、その90%以上で労働者数は50人に満たない。残りの数%が50人以上の事業所だ。労働力調査による総就業者数は約6500万人である。

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 事業所の労働者の健康管理に関する指導や助言を行うのが産業医だ。労働安全衛生法は、50人以上の事業所は産業医を置くよう定めており、労働者数の規模によって、常勤の専属産業医か非常勤の嘱託産業医を選任しなければならない。つまり、50人未満の事業所で働く人は産業医と接する機会が極めて少ない。対応が容易である大企業から始めて、最終的に小規模事業所の全労働者への配慮に向かう方向なのであろうが、いまだ数千万人単位の労働者が産業医とほぼ無縁な状況にある。

 加えて、労働者は第1次産業では減少し、反対に第3次産業で急増しており、高齢化、外国人やパートの増加など、労働者を取り巻く環境は激変しており、従来の産業保健対策では対応が困難になっている。成熟した国として労働環境の改善は必須であり、巨大な国内総生産(GDP)に応じた先進的な働き方改革も求められている。

 現代社会はストレスも多くメンタルケアも重要である。15年から事業所におけるストレスチェックの実施も義務付けられた。日本における産業保健は着実に前進している。しかしながら、産業構造の基礎部分を支えているのは、90%以上を占める50人未満の事業所における労働力である。

 幸い北九州市の産業医科大は産業保健の専門家を育成している。日本医師会認定産業医制度もあり、各地域の医師が多忙な診療の合間に、例えば、有機溶剤や粉じんの多い事業所における労働者の健康問題について、あるいは、メンタルヘルスについて多くの時間を費やして学んでいる。

 就業時間についても、1カ月当たり100時間を超えた超過勤務があれば、事業所は担当の産業医にその情報を伝える義務があり、医師との面接を促さなくてはならない。

 医学の進歩とともに、疾病を抱えながら仕事を続けている人も少なくない。がんの治療を続けながら仕事をしている人は、既に30万人を超えている。数年前の数値なので、さらに増加していると思う。

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 世界的に評価の高い日本医師会認定産業医制度によって育成された認定産業医は、全ての都道府県で日々の診療を行いながら活動している。次の一手は、50人未満の事業所で働く人々への対応だ。地域の「かかりつけ医」に協力を仰ぐなどすれば、小規模事業所でも比較的小さな経済的負担で、産業医がいる恩恵が得られるのではなかろうか。

 人工知能(AI)やロボットの活用で労働現場の負担が軽減されるまでには、まだ相当の年月を要する。さらに、多くの外国人労働者があらゆる分野に入ってくる。心身に障害がある方々も元気に仕事を続けてほしい。各地の認定産業医の力を借り、日本の産業基盤を強化するため、早急に隙間のない産業保健の構築が必要である。

 【略歴】1949年、福岡県久留米市生まれ。久留米大医学部卒の内科医。福岡県小郡市で医師会活動の後、NPO法人で地域の健康増進活動に取り組む。2012年6月から日本プライマリ・ケア連合学会理事長。父は医師で詩人の丸山豊。

=2018/02/04付 西日本新聞朝刊=

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