【外国人労働者問題】 宮本 雄二さん

宮本 雄二(みやもと・ゆうじ)さん=宮本アジア研究所代表、元中国大使
宮本 雄二(みやもと・ゆうじ)さん=宮本アジア研究所代表、元中国大使
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◆受け入れ共生は可能か

 外国人労働者の問題を取り上げることに実は躊躇(ちゅうちょ)した。私の専門外であり、私自身、専門外の人たちが思いつきのコメントをすることに、どうしても批判的だからだ。現実ないし現場を知らずに、いくらきれい事を並べても、やれないことは多い。実現できないものをあたかも実現できるかのように語るのは無責任であり、不誠実だと思う。

 同時に専門外の方の意見には、はっと気づかされて蒙(もう)を啓(ひら)かれたものもある。それは多くの場合、思いつきではなく異なる視点に立って深く考え抜かれた意見だ。私の見解がどちらに属するか、それは皆さんの判断に任せるとして、先を急ごう。

 外国人労働者を正式に受け入れるかどうかで国論は割れている。これは結局、移民受け入れの是非の問題に帰着する。社会の現場は、ますます外国人を必要としている。建設現場だけではない。農林水産業、製造業、小売業などの現場でも労働力が足りない。介護もそうなりつつある。さらに情報技術(IT)などの高度な技術者まで不足している。日本経済発展のためだ、などと意気込まなくとも、経済と生活の現状を維持するためだけでも外国人の存在は不可欠になっているのだ。

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 それでも移民受け入れのハードルは高い。日本社会に異質の存在が入り込むことに対する反発がそれだけ強いのだろう。移民が増えれば社会の安定と調和が壊されると言う人もいる。だが移民が来なくとも経済の発展そのものが、ライフスタイルや社会を激変させてきたではないか。同じ文化に裏打ちされた社会の一体性が壊れると言う人もいるだろう。だが中国にいたとき、欧米への留学生は中国人として帰ってくるが、日本留学組は日本人になって戻ってくると言われていた。われわれの考える以上に、日本文化の影響力は大きいのだ。

 欧米の移民反対論の強まりを例に移民受け入れに消極的な人もいるが、私に言わせれば次元を異にする。日本は何周も遅れてトラック走に参加していると思った方がいい。

 ポーランドの知人が、外国人が最も住みやすい国と激賞していたオランダでも移民反対の声は高まっている。欧州連合(EU)の移民問題は内部の対立を激化させており、英国はそれをきっかけに離脱を決めた。外国生まれの居住者あるいは外国籍の居住者の推計人口は、オランダは日本とほぼ同数の約二百万人であり、英国は約八百五十万人だ。人口比率でいえば、オランダは12%弱、英国は12%強に達しているのに、日本は、わずか1・6%にすぎない。

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 EUはその理念の一つ、単一市場実現のために、域内における労働移動の円滑化を重視してきた。また人権重視の観点から難民受け入れにも積極的であった。その結果としての移民問題なのだ。国民が、これ以上の移民の増大にノーと言いだした。国民の意思を尊重するのが民主主義だ。国民の権利と平等を重視するのが自由主義だ。自由民主主義は、民主と自由の間のバランスをとるのが難しい。既に住む人と新しく来る人の間の人権の調整でもある。

 米国のアトランタに住んでいた頃、白人と黒人の居住区は別だった。ある黒人の指導者にどうして一緒に住まないのか聞いてみた。彼の答えは「生まれ育った環境や文化が違えばお互いに気詰まりだ。だったら別々に住んだ方がいい」というものだった。生活の知恵ではある。

 住み分けろというつもりはないが、移民受け入れを政策として決め、それから生じる問題点は、大いに知恵を出して一つ一つ解決していく。このようなやり方もあるのではないだろうか。

 【略歴】 1946年、福岡県太宰府市生まれ。修猷館高-京都大法学部卒業。69年に外務省入省。中国課長、アトランタ総領事、ミャンマー大使、沖縄担当大使などを歴任。2006年から10年まで中国大使。著書に「強硬外交を反省する中国」など。

=2018/03/18付 西日本新聞朝刊=

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