【高齢者施設の在り方】 関根 千佳さん

関根 千佳(せきね・ちか)さん=ユーディット会長 同志社大客員教授
関根 千佳(せきね・ちか)さん=ユーディット会長 同志社大客員教授
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◆自身も貢献する場に

 89歳の父が老々介護をしていた85歳の母が1月、緊急入院した。医師は、食事や服薬管理を考えると在宅での生活はもう無理だという。急きょ高齢者施設を福岡で探すことになった。

 母になじみがあり、父がバスで行きやすい場所の中から候補を7か所ほど紹介していただいた。だが、雰囲気や清潔感などは、実際に見学や体験入居をしてみないとよく分からない。いろいろ検討した結果、外部から複数のボランティアが入っているアットホームな施設に決めて、3月半ばに入居した。

 母が長年作ってきた木目込み人形も数体持ち込んで、懐かしい家具を見ながら暮らせるようにした。やっと落ち着いてきたところであるが、母が本当にここで暮らしていくには、まだまだ時間がかかるだろう。この数カ月を通して思ったことがある。

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 (1)医療・介護・福祉業界の方々は、もう少し情報通信技術(ICT)を使ってほしい。紹介業者の方は的確な情報をメールで送ってくださるので助かったが、病院からは東京での仕事中に電話がかかってくることも多かった。施設選びに関しても、担当者とメールでやりとりできるかどうかが重要な決め手となった。子世代が現役でかつ遠距離の場合には、ICTでの連絡は必須である。

 (2)介護施設に関する情報がまだ少なく、インターネットで検索しても正確な内容が把握できない。検索サイトはあるが、条件による絞り込みなどはまだ不十分だ。また、宿泊や飲食のようなユーザーによる評価サイトは少なく、あっても元職員のコメントであり、当事者や家族、現役職員の声は少ない。サービス業を評価するのは非常に難しいことではあるが、何らかの客観的な指標が欲しい。

 (3)契約書の内容が多岐にわたり、理解することが難しい。特に介護保険の単位に関しては、最初の請求日まで、実際の点数や金額が分からなかった。高齢者にも分かりやすく契約内容をシミュレーションする仕組みがあるといい。

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 (4)母には長いつきあいの主治医とケアマネさんがいたが、有料老人ホームに入ると、その人々との関係は切れるという。だが、サービス付き高齢者向け住宅への入居だと関係は継続できるのだ。紹介される施設はどれも似ていて素人には区別できないのに、入居後に医療と介護の体制が大きく変わるかもしれないというのは、不安であった。

 子どもに対しては、出産前から育児まで切れ目のない支援を行う北欧生まれの制度「ネウボラ」を採用する自治体が日本でも増えている。同様に高齢者に対しても、切れ目のない支援が欲しい。せめて各個人の医療や介護の履歴情報を受け渡せる仕組み、PHR(パーソナルヘルスレコード)が必要である。

 (5)施設の日々のプログラムに、文化的なもの、学びに関するもの、男性が参加しやすいものがもう少し増えればと思う。心身は弱っていても童謡を歌いたくない人もいる。例えば毎日、入居者が「一緒に新聞を読む時間」があっても良い。参加者が、自ら動き、自ら企画するプログラムが増えれば、スタッフはかえって楽になる。高齢者自身が他者に「貢献する権利」を守る必要もあ
るのではないか?

 (6)施設に図書室がないのも惜しい。各自の蔵書を寄贈し「まちライブラリー」として市民に公開できたら、より地域に開かれた場になるだろう。海外の高齢者施設は、大きな図書室を備え、拡大読書器や音声読み上げパソコンも完備している。情報にアクセスできる環境づくりを、地域の若年層とともに、高齢者自身が担っていってほしい。

 【略歴】1957年、長崎県佐世保市生まれ。九州大法学部卒。81年、日本IBMに入社。ユニバーサルデザインの重要性を感じ、98年に(株)ユーディット設立。同社社長、同志社大教授など歴任。著書に「ユニバーサルデザインのちから」など。

=2018/04/23付 西日本新聞朝刊=

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