【社会関係資本】 松田 美幸さん

松田 美幸(まつだ・みゆき)さん=福岡県福津市副市長
松田 美幸(まつだ・みゆき)さん=福岡県福津市副市長
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◆住民の絆 地域豊かに

 福岡県福津市は子育て世代や子どもを持ちたいと願う世代に人気が高いと言われる。大都市に近接しながら、海も山もある抜群の自然環境は何よりの魅力だ。また、地域コミュニティーのつながりに引かれて移住を決める若い世代も多いのが、福津らしい。

 地域の結びつきがとても強い津屋崎地区で、実家の材木店を継いだ西野浩太郎さんの話が印象的だ。「小さい頃はどこで何をしていても、近所の人から親に筒抜けで息苦しかった。でも、故郷にUターンし親になってみると、子どもたちが地域に見守られていることが、とてもありがたいと気づいた」。お子さんが通う小学校のPTA会長として、途絶えていた子ども山笠の復活を牽引(けんいん)した人でもある。

 津屋崎祇園山笠は、300年の歴史を持つ福津市の無形文化財で、地域が一体となるお祭りだ。子どもたちがこの祭りについて学び、子ども山笠を披露することは、未来の地域の担い手を育てて地域をより活性化する力になると、PTA会長と校長先生は意気投合した。地域住民の皆さんも、山笠保存会との調整や資金集め、担ぐ神輿(みこし)の材料調達から組み立てまで、あらゆる支援で応えてくれたそうだ。

 こうした地域コミュニティーの連帯感の濃さは、マイナスに働くリスクも抱える。若かった時の西野さんのように束縛や負担を感じる人は離脱してしまう。自治会・町内会への加入率が低下し、高齢化で担い手がいないという悩みは全国の自治体に共通する。

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 活気あるコミュニティーはよそ者や異世代を受け入れ、開放感が漂うつながりをどう育てているのか。例えば、地域のお祭りは日頃のつながりが「見える化」されて興味深い。津屋崎には、今年で21回目を数える「よっちゃん祭」という住民発案で手作りのお祭りもある。古くからの住民も移住したばかりの若いファミリーも主役になって関わり、楽しんでいた。いわゆる地元住民の方々が、自分たちのこだわりをふりかざすことなく、新しい風を吹きこむ人たちを、全力で応援している。

 1990年代に台頭したソーシャル・キャピタルという概念が、今あらためて注目されている。「社会関係資本」と訳されるこの言葉は、市民が自発的にコミュニティーを形成したり参加したりする社会的な絆を指し、共通の目標に向けた人々の協調行動が活発化することで、社会の効率性を改善できるとされている。「社会関係資本」の醸成には、人への信頼、お互いさまの規範、人の交流という三つの要素が必要だと言われるが、そう簡単ではない。

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 市民は、居住する自治体との関わりで言えば、三つの顔を持つ。「納税者」として、「サービス利用者」として、そして「まちづくりの行動主体」としての顔だ。市民ニーズに応えて行政サービスを充実させるのはいいが、そのことで行動主体としてのまちづくり参画機会が減ってしまい、かえって社会関係資本を低下させてはいないだろうか。

 福津市では介護予防や日常生活支援を住民主体で推進すべく、支え合い協議体の発足に工夫をこらした。協議体参加者はすべてボランティアで、幅広い世代の市民と多様な専門職が集う。公募で選ばれた2人の地域支え合い推進員にメンバーが信頼を寄せ、協議体に自主参加している。行政職員は、市民のパートナーとして裏方のプロデューサーに徹する。

 活気あるコミュニティーの市民の動きは速く、従来の役所の慎重さではついていけない。そのスピード感の違いは大変だがおもしろいと感じられる職員たちの柔軟さが頼もしい。そして、地域の皆さんが懐深く、柔らかいのだ。

 【略歴】1958年、津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士(MBA)。2017年12月から現職。福岡県男女共同参画センター「あすばる」の前センター長。内閣府男女共同参画会議議員、内閣府少子化克服戦略会議委員。

=2018/04/30付 西日本新聞朝刊=

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