【ウミガメとナマズ】 松田 美幸さん

松田 美幸(まつだ・みゆき)さん=福岡県福津市副市長
松田 美幸(まつだ・みゆき)さん=福岡県福津市副市長
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◆豊かな食文化とは何か

 福岡県福津市役所には「うみがめ課」という名称の職場がある。恐らく世界でもここだけだろう。合併前の津屋崎町で、環境衛生を担当していた環境整備課を2002年に改称し、合併後もそのまま引き継がれている正式な組織名だ。絶滅危惧種とされるアカウミガメは津屋崎の豊かな自然環境を象徴する貴重な生物であり、学術的、文化的にも価値があることから、住民と行政が一体となってウミガメ保護に取り組んできた。

 砂浜に産卵にやってくるウミガメがいつ上陸しても見つけられるよう、住民グループが交代で海岸を毎日歩いて観察してくださっている。つい先日も、2年ぶりの産卵を確認した住民から、すぐに、うみがめ課職員に連絡が入り、その様子を記録した。

 海岸にごみがあったり、上陸する夜に周囲が明るかったり、大きな音が出ていたりすると、産卵やふ化などの妨げとなるため、そうした行為を自粛するウミガメ保護条例を制定し、人間の行動を規制している。何より、産卵に適した砂浜を保全することがウミガメを守ることにつながる。ただ、何がウミガメの保護になるのかという問いは深い。

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 今年2月、世界ウミガメシンポジウムが38回目にして初めて日本で開催された。日本は北太平洋では唯一のウミガメの産卵地であり、生態の研究に大きな責任を負う立場にある。今大会は「ウミガメ保護のその先に」をテーマに掲げ、これまで保護一辺倒だった流れから、保護することで回復してきたウミガメや自然と人間はどう関わっていくべきか-という示唆に富んだ議論が交わされた。

 昔話の浦島太郎にウミガメが登場し、その肉や卵は食用に、甲羅は装飾にと、日本ではウミガメは日々の暮らしの中で身近な生き物であった。今でも一定の割当で食用に捕獲している地域もある。土地に根付いた食文化とはいえ、絶滅危惧種を食することをどう理解すればいいのか。シンポで海外の研究者が参加者に問いかけた。「では、絶滅危惧種に指定されているクロマグロやニホンウナギを食べる人を批判しますか」

 国連が掲げる「持続可能な開発目標」(SDGs)は、社会と経済と環境の三側面から統合的な開発を目指す。文化の視点も踏まえた社会との関わりなしに、環境保全や経済成長は実現しないことを痛感した瞬間であった。

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 先日、福岡県大川市で開かれた全国なまずサミットに登壇した。「なまずでまちおこし」を掲げる埼玉県吉川市の呼びかけで、全国のナマズに縁のある自治体が集った。福津市には「なまず伝説」が伝わる大森神社があり、室町時代に戦で負傷した領主を救ったという大なまずの絵馬が奉納され、境内にはなまず像も置かれている。この地域では「ナマズは神の使いなので食べてはいけない」という信仰が生きている。福岡市の賀茂神社や佐賀県嬉野市の豊玉姫神社にも同様の信仰があり、氏子はナマズを食べない。

 大川市では、筑後川の天然ナマズを川アンコウと呼び、新しい観光素材として売り出し中だ。サミットを呼びかけた吉川市は約400年前から川魚料理の伝統があり、共食いの習性があるナマズの養殖にも成功している。低カロリー・高タンパク質のナマズは、世界の飢餓問題を救うかもしれないと期待も高い。

 実は、日本は既に養殖ナマズを輸入しており、その量は近年、急増しているという。消費者がそれと気づかない間に、白身魚として外食やお総菜に使われている。食材市場がますますグローバル化する中で、環境と経済の視点からも、豊かな食文化とは何かを問い直す必要があるようだ。

 【略歴】1958年、津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士(MBA)。2017年12月から現職。福岡県男女共同参画センター「あすばる」の前センター長。内閣府男女共同参画会議議員、内閣府少子化克服戦略会議委員。

=2018/07/02付 西日本新聞朝刊=

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