【東アジア新局面】 姜 尚中さん

姜 尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長
姜 尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長
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◆米中と南北、真逆の動き

 米中間の貿易戦争は全面的な経済戦争の様相を呈するとともに、いまや政治や安全保障の分野にも飛び火し、米ソ対立に替わる新たな冷戦の始まりすら危惧(きぐ)されている。

 その背景に習近平国家主席による独裁的な一党支配で固められた「異形の大国」と、トランプ氏という「異形の」大統領に翻弄(ほんろう)される「デモクラシーの帝国」とのミスマッチがあることは間違いない。

 ただ、米国の中国に対する強硬な姿勢は、トランプ氏だけの専売特許ではない。トランプ氏に批判的な民主党も、対中政策ではおおむね、トランプ氏を支持しており、米中間の摩擦は、新たな冷戦型の対立へとエスカレートしようとしている。

 しかも捻(ねじ)れているのは、独裁的な新興の大国・中国が少なくとも建前では多国間自由貿易を唱え、戦後、そうしたシステムの「守護神」であったはずの米国の大統領が公然と反グローバリズムと「アメリカ・ファースト」の愛国主義を煽動(せんどう)しているのである。

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 こうした捻れた米中間の新たな冷戦の様相に、安全保障では米国との同盟関係に死活的な利益を見いだしながらも、経済的には開放的な多国間自由貿易によって繁栄してきた日本や韓国などは当惑気味だ。

 特に、日米同盟を要に、経済的にも緊密な日米関係を国家の土台に据えてきた日本はいま、いわば股裂きのような苦境に立たされている。

 中国の海洋進出は、国の安全保障にとって最大の脅威であるが、それに対する抑止力の頼みの綱である米国との貿易や通商、経済全般で利害が衝突し、日米2国間の自由貿易協定(FTA)をのまされる可能性が大きくなっているからだ。

 それだけではない。米国の同盟国・日本は、地上配備型の弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」など、高額な米国製の武器購入を迫られ、さらには専守防衛の原則を捨てて自衛隊が米軍と一体となった「多次元横断(クロス・ドメイン)防衛構想」へと突き進もうとしており、南シナ海での中国VS日米の偶発的な衝突すら、杞憂(きゆう)ではなくなりつつある。

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 こうした中、東アジアで冷戦終結への歩みが進みつつあるのが、朝鮮半島だ。

 確かに、北朝鮮の非核化の展望には依然として不透明感がつきまとっている。とはいえ、第2回の米朝首脳会談が開催されれば、非核化への象徴的なステップが踏み出され、それに応じて朝鮮戦争の終結宣言や両国相互の連絡事務所の設置なども議題にのぼりそうである。

 しかも、南北の緊張緩和と平和共存に向けて習近平氏の訪朝や北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の訪ロなどが取り沙汰され、また日朝首脳会談の可能性も浮上しつつある。さらに、こうした一連の動きを後押しする国際世論づくりに向けて、ローマ法王の訪朝の可能性を探る動きも浮上しつつある。

 このように見ると、一方では米中間の新たな冷戦の気配が濃厚になりつつありながら他方、朝鮮半島では確実に地域的な冷戦終結に向けた動きが加速しつつあるのである。

 この逆方向の動きが、今後どこに収束していくことになるのか、まだ予断を許さない。ただはっきりしていることは、東アジアが新たな冷戦型対立の構図に巻き込まれることは、日本の国益、さらには東アジアのゲートウエーを目指す九州にとっても百害あって一利なしであるということである。

 とすれば、そのリスクを少しでも和らげる朝鮮半島の冷戦終結に向けて、日本はより積極的にコミットしていく必要があるはずだ。

 【略歴】1950年、熊本市生まれ。早稲田大大学院博士課程修了後、ドイツ留学。国際基督教大准教授、東大大学院情報学環教授、聖学院大学長など歴任。4月から鎮西学院院長。専攻は政治学、政治思想史。著書に「漱石のことば」など。

=2018/10/15付 西日本新聞朝刊=

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